製線に關する二三の研究
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概要
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本報告は第一章及び第二章に分れ,第一章に於ては材料がダイスによつて變形を受ける時の幾何學的の機構を考へ,更に機械的性質の左右される要素を考へた.變形の有樣を見やすくするために材料の丸棒を縱に半分に切斷し,其の半面に格子状の線を刻し,ついでダイスで引いた.かくして格子状の變形から材料の變形を檢することにした.次の諸項がその結論として得られたものである.(1)格子線の内,棒の軸に平行なるものはダイスを通つた後に互に平行である.但し隣接する二線間の距離は均一に縮められる.(第1圖.第2圖)(2)格子線の内,棒の軸に直角なものはダイスによつて曲げられる.其の形は大體パラボラに近似し表面に近づく,程強く後方に引かれる.(第1圖.第2圖)(3)此等の格子線の變化をしらべると次のことがわかる.即ち材料が變形を受け始める點の軌跡は球面である.(第10圖)此の球面の中心はダイスの傾が中心軸と交はる交點に一致する.同樣に變形の終了する點の軌跡も亦球面で同じ中心を有する.第10圖のP′Q′O′及びP"Q"が此等である.此等の二つの球面間にある任意の球面(同じ中心を有する)は同程度の壓縮を受けた點の軌跡となる.如斯き想像は硬度の變化やマクロ組織からも推定されるのであるが,此等の關係から理論的に次の結論が得られる.即ちダイスの角度が大なる程且牽伸が進む程縱の格子線の曲げられ方が著くなり内外の機械的性質の差は著くなる.(4)製線の際に針金の内部にカツプ状の割が生ずることが屡々ある.此の理由は未だ充分に説明されてゐないが次の點も一つの理由であると思はれる.即ち線の内部は充分に牽伸度が進行すると繊維組織に富んで來る.外側はあまり進行しないから内部は外部よりも伸を減少しその結果切斷しやすくなる.次に第二章に於いては製線の際の種々なる状件によつて線材内部の繊維組織が如何に影響を受けるかをX線により檢べた.以下諸項は其の結論である.(1)焼鈍状態の繊維組織のない銅線を一度ダイスを通して引く時には繊維組織を得るやうになる.更にダイスで牽伸を重ねると共に繊維度は全體として増加する.増加の割合は牽伸の初期には除々であるが90%以上になる時には急激になる.(第24圖)(2)繊維度は針金の中心部に至る程大で最外側は繊維度を示さぬ.(3)一回の牽伸率が大なる程繊維組織は大となる.(第18圖)(4)潤滑劑がダイスと材質間の摩擦を減少せしめる程針金の繊維度は高まる.(第23圖)(5)牽伸速度が小なる程針金は繊維度が大となる.(第19圖)(6)以上の如き方法で繊維度が大となれば機械的性質は同時に改良される.例へば引張強さや屈曲値は増加する.
- 宇宙航空研究開発機構の論文