戦前期における製糸企業の成長構造 : 企業統治と投資行動
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概要
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本稿では,戦前期日本における製糸企業の成長を,経営者による投資の意思決定およびそれを規律づけた企業統治の構造という視点から検討する。これまでの製糸業史研究は,高収益に結びつく良好な企業パフォーマンスが達成できた諸条件の解明に精力を集中し,収益と成長との関係,あるいはそこに介在する経営者の意思決定や統治構造といった問題群を自覚的に取り上げてはこなかった。本稿では,初期条件が近似していた2つの製糸企業(郡是製糸・関西製糸)を取り上げ,株主や債権者の利害に基づく企業統治の構造的な相違が投資の意思決定にどう影響し,企業成長をいかに規定したかについての事例分析を試みた。その結果,同一の製糸企業においても債権者や株主による規律づけの変化(統治構造の変化)が投資に促進的ないし抑制的影響を及ぼして企業成長を規定したこと,また統治構造の違いによって近似した初期条件に置かれた製糸企業間に成長性の差が生じたことを明らかにした。関西製糸を含め,優等糸を生産したほとんどの製糸企業が低成長戦略を選択した理由として,従来,製品の特性に制約された生産過程の問題点(規模拡大による均質な優良繭入手の困難)が指摘されてきた。また,優等糸供給者の中で郡是製糸だけが例外的に急成長を遂げた事実については合理的な解釈が提示されていなかった。本稿の分析は,これらの問題を企業統治構造のあり方から統一的に説明しうる可能性を示唆するものである。
- 早稲田大学の論文
- 2004-12-15
著者
関連論文
- 榎一江著, 『近代製糸業の雇用と経営』, 吉川弘文館, 2008年, 6+329+7頁
- 明治中期の優等糸製糸経営 : 郡是製糸の革新性について
- 戦前期における製糸企業の成長構造 : 企業統治と投資行動