フランスの社会保障制度における事業主の役割に関する歴史的考察
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概要
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フランスでは,社会保障制度の管理運営は,事業主や被用者等の当事者代表によって行われている。また,当事者の拠出する保険料が主要な財源となっているが,とくに事業主による保険料負担が財源の多くを占めている。本稿では,戦後の社会保障制度における事業主の役割について,社会保障の法定制度のみではなくそれを補う補足的な社会保護制度も対象に含めて,制度の発展や社会経済状況の変化等をふまえながら歴史的に考察を行う。社会保障制度における事業主の役割としては,「管理運営への関与」と「財源の負担」が重要である。法定制度においては,管理運営への関与は,リスク別に設置されている金庫の理事会において行われているが,理事会の構成は政治的な影響のもとで何度も変更されてきた。1990年代には労使同数制となり事業主の位置づけが見直されているものの,制度の管理運営に対する公的介入はしだいに強化されている。財源の拠出に関しては,1980年代以降は経済・雇用に与える影響が配慮されるようになり,抑制・軽減されている。被用者負担と比較した場合,事業主の負担割合は低下傾向にあるものの,依然として大きく,近年は安定的に推移している。一方,法定制度の周囲で発達している補足的社会保護制度においても,事業主は管理運営への関与や財源の負担を行っている。補足制度は拡充の一途をたどっており,事業主の役割も増大している。今日,法定制度においては,事業主の役割はより社会的・一般的な性質を帯びてきており,事業主は,社会保障制度の効率性や社会経済に与える影響が考慮された役割を適切に,安定的に担うことが期待されている。また,補足制度においては,今後も事業主は主体的に関わっていくことが期待される。
- 早稲田大学の論文
- 2003-12-15