サプライヤーの能力向上プロセスと開発分業の変化 : 台湾電子企業を事例にして
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概要
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本研究は台湾電子企業を分析対象とし、サプライヤーからの視点で能力を構築したプロセスとメーカーとの外注・分業関係の変化を時系列で類型化する。また検査という機能に着目し、能力向上段階と接合することで段階間のレベルアップの要因を明らかにすることを目的とする。多くの部品をサプライヤーに依存するメーカーにとって分業関係の管理は重要な課題で、メーカーは外注にあたりサプライヤーの能力を評価し、共同生産・開発でサプライヤーの能力に期待するのではという問題意識に立脚する。「デザインインとは:製品の企画・設計段階からサプライヤーがコミットする開発分業の取組み」と定義し、サプライヤーが単なる貸与図による受託生産から、独自の工夫改善能力を身につけ詳細設計や応用開発でコミットする段階に至る役割変化のモデル化を試みる。段階論モデルでは(1)操作、(2)保全・管理、(3)改善・改良、(4)企画・設計で区分する研究がある(〓,1994)。この研究をふまえ、各段階から次のレベルに上がるには、納入部品の不具合事例から「What:何がおかしいのかを特定し」、「Why:なぜその不具合が生じたのか原因を究明し」、「How:どうすれば不具合が生じないように出来るか、根本的な解決策を講じる」といった異なったレベルの能力を身に付けることが要求されるのではないかと考えた。付加価値を生まないとされた検査機能が能力向上のマイルストーンとなり上記に対応する工夫改善で、サプライヤーが能力向上すればメーカー側は取組みを評価し、発注内容は量・質的に変化し、また検査も納品検査から自主検査へと変わると想定した。事例の台湾電子企業Q社は、デザインイン関係の好事例で、米・日メーカーと機能展開で棲み分けながら詳細設計や応用開発(R&D機能のうちD)機能を強化した。以下その発展段階は、【第一段階】:製造能力、出荷検査、OEMには参入していない状態から、【第2段階】:検査機能強化、不良率低減、Quality Assuranceレベル、【第3段階】:前後工程も含めた全体最適化チェック、VE・設計提案レベルという段階で能力を向上させ、分業での関係も「まとめて任せられ」、取引も質・量的に高度化した。近年では各モジュールの基板回路の全体最適化提案なども行うレベルに至っている。このような段階的能力レベルアップには工程内エンジニアリングや検査のシステム確立要因が重要であり、そこにはメーカーとの双方向的な情報交換や技術支援があった。その後の中国進出でQ社が果たしたファシリテーター的役割分担から、「米・日-台湾-中国」という重層的な事業展開の構図で今後の研究に一石を投じるものでもある。また分業の範囲線引を巡っては、メーカー側の付加価値活動との棲み分けという問題もあり、依託先により開発にコミットを許容する程度は異なる。
- 2005-09-30