日本企業の言語コストと言語ベネフィット : バイリンガル経営の阻害要因の分析を通じて
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概要
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ポール・クルーグマンが1999年に『フォーチュン』誌で、国民の英語能力と国の経済力は比例すると述べたように、IT化とグローバル化に伴って英語の経済価値が高まっている。グローバルなビジネスのコミュニケーションは英語に収斂され、世界中の企業の約9割が英語を共通語として、国籍を超えた人材や英語情報を多く活用した経営を行うようになった。一方、日本企業は、海外での生産や研究開発などが増加しているにも関わらず、マネジメントは海外子会社も含めて日本人中心に日本語で行われており、優秀な非日本人の活用やこれらのヒトに帰属する英語情報の活用は遅れている。このことがもたらす経営上のデメリット、すなわち言語コストは大きいといえる。アンケート調査からは、企業や経営者は一般に言語コストに対する意識は持っているが、英語と日本語を共通語としたバイリンガル経営を実施することには消極的であることが明らかになった。その理由は何か。本論ではこの命題について、先行研究から抽出した課題をもとに、言語コストに加えて、日本語で経営することのメリット、すなわち言語ベネフィットという観点から検討した。その結果、モノづくりなどのオペレーションにおいては、日本人同士で日本語を使用する方が情報効率が高いことが明らかになった。日本企業は、言語コストと言語ベネフィットの間でジレンマに置かれているといえるが、今後はグローバルな視点からは、言語コストの比重が大きくなると予想される。オペレーションは当面は日本人(日本語)中心に行うとしても、会議などのマネジメント活動をバイリンガル化するには、言語の思考形成機能にも注目し、日本語が日本的経営に埋め込まれているという事実を理解した上で、状況に応じた両言語の使い分けの方途を考えるべきであることを提案したい。企業の語学研修のプログラムにこのような視点を加えることも一考である。研究にあたっては、インタビューやアンケートによる調査と二次資料をベースにし、理論的分析に言語学や組織論を援用している。
- 2005-09-30
著者
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