川端康成の『眠れる美女』と自由間接話法 : ウルフの『ダロウェイ夫人』の文体との比較研究
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概要
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川端康成の『眠れる美女』(昭和35年)とヴァジニアウルフの『ダロウェイ夫人』(昭和元年)という二つの作品は、セッティングやテーマや出来事などが異質であるため、比較するところはないと思われる。しかしながら、よく観察すると両作品に出てくる語り手の語る方法に同質のパターンが見られる。このパターンの特徴は、センテンス毎に、語り手に属する客観的な声から主人公に属する主観的声へとの移り変わりが目立つ。『ダロウェイ夫人』の場合、この多数の観点からの語りは、外部に立つ客観的語り手の話法と主人公が考えていることを伝達する間接話法と自由間接話法という多数の表現方法を交互に用いることによって実現されている。川端康成の『眠れる美女』でも『ダロウェイ夫人』と同様、センテンス毎に物語の外部に立つ客観的語り手(三人称)から、間接話法を経て自由間接話法への移動によって主人公の物理的な行動と内面的思索どいう両面が表現されている。しかし日本語の言語的特性によってそれぞれの文章が自由間接話法(語り手の解説)か自由直接話法(主人公の内面的考察の引用)かということを見分けることは難しい。両作品で見られるセンテンス毎の語り手と主人公の関係の変化は、外部の描写から内的黙想の描写へと滑らかに表現を可能にしている。よって、読者は主人公の意識を瞥見できるのである。
- 2005-03-31