古典主義時代から啓蒙の世紀にかけてのフランスおよび日本における文化的近代化(III)
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概要
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フランスと日本が,とりわけけ16世紀のルネサンスの時代から18世紀の啓蒙主義の世紀をへて19世紀前半までに経験した文化の変遷をつぶさに見ると,この地球を遠く隔ててほとんど対極的な位置にある両国の間に,相互の直接の交渉も影響を与えあうような関係もないにもかかわらず,一種の文化的並行現象がうかがえる。この現象がどのような原因で生起するのかという問題は,人間の精神の歴史的発展の秘密に関わるだけに,両国の歴史の根源に立ち入って深く考察し,徹底的に解明しなければならない問題であろう。しかし今は近代化に直接関わった諸世紀に注目し,その間にどのように両者の間に相似した発展があったのかという現象面での観察にとどめよう。この観察は,次の時代にどうして両者の間にジャポニスムとか,芸術上の模倣や導入といった文化交流が急激に,つよく行われるようになったのかということの理解におおいに役立つはずだからである。この観察のなかで筆者は,日本における18世紀なかば以降の蘭学の興隆を主体にした文化現象もしくは運動を,フランスにおける啓蒙主義と見比べることによって,日本における啓蒙主義運動と考えることを提唱する。日本の近代化の遠因はすでに江戸時代の文化的な動きのなかにある,という見方である。とはいえ両国の文化的並行現象は,まったく同一次元にあるものではなく,相似的な意味を持つものでもない。大きな違いは,フランス革命と明治維新を比べれば分かるように,一方に社会を根底から変革するラジカルな徹底性がこの近代化の中心にあったのに対し,他方には,他国からの容喙を許さぬ孤立し,安定した自立的平和主義(状態)がながらく見られたことである。後者は,熱狂的な飛躍で新規と創造性を獲得しめざましい革新を世界に向かって起こすエネルギーとひきかえに,極東の一隅で,世界に冠たる平和を265年にわたって享受しえたのである。
- 2005-02-28
著者
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