愛媛県城川町中津川洞遺跡土上の一人骨
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
愛媛県宇和郡城川町所在の中津川洞より発見された繩文時代早期の熟年女性人骨1例を報告した。 脳頭蓋, 下顎とも小形であるが, 概して筋付着部の発達は強く, 女性としてはかなり屈強といえる。脳頭蓋は中頭型・高頭蓋を呈し, 額の広さが目立つ。顔面は低く, 眼窩は矩形でほぼ水平位をとり, 鼻根は中等度に隆起する。下顎は高さに比して厚く, 筋突起が頑丈で, オトガイが強く突出する。 下顎歯牙はいずれも磨耗が強く, 咬合面は広く象牙質を露出し, しかも舌側から頬側へ向って傾斜する。象牙質には粒子が転ってできたような微細痕が存在する。 椎骨には変形性関節症, 骨棘, 椎体の扁平化など退行性の変化が顕著にみられ, 局所的な老化現象が現われている。 四肢長骨はすべて長さに比して細く華奢である。しかし大腿骨は粗線が強く発達するため柱状化し, 脛骨は後面に第4稜の形成があり扁平化する。橈骨は下端部が後外側に転位し変形する。足根部には蹲距姿勢など足根関節における過度の運動が原因すると考えられる小面や結節が存在する。 身長は大腿骨の長さから約 148cm と推定される。 広い前頭骨のなど例外もあるが, 四肢骨が細く全体として華奢な骨格, 著しい歯の磨耗, 低い顔面, ほぼ水平に位置する眼窩, 小形な下顎, 低い身長など本人骨にみられる特徴はこれまでに報告された繩文早期人骨に相通じるものである。
- 国立科学博物館の論文
- 1976-10-29