夕張・日高山系高山植物区系中の周極要素について
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概要
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日高, 夕張山系高山植物相中の周極要素はジタ植物からウマノアシガタ科まで, 28種産することが知られている。それらは, ミヤマヒカゲノカズラ, アスヒカズラ, コスギラン,スギカズラ, コケスギラン, ヒメハナワラビ, ミヤマワラビ, アオチャセンシダ, カラフトイワデンダ, ウサギシダ, イワウサギシダ, ミヤマネズ, ホソバウキミクリ, ヒロハコメススキ, コメススキ, ウシノケグサ, ミヤマコウボウ, リシリカニツリ, タカネシバスゲ, カラフトイワスゲ, ヌマハリイ, ワタスゲ, ミネハリイ, エゾホソイ, エゾネギ, ムカゴトラノオ, マルバギシギシおよびケナシミヤマキンポウゲである。イブキトラノオ, ホソバツメクサも周極植物として扱われる場合もあるが, 分布地域や, 種の範囲が近年変更されたことなどにより, 本報からは除外した。 上記28種につき, 日高・夕張山系の採集品にもとづいて記載文を作製するとともに, 他の地域産の標本との比較の下に, 分類学的再検討を行なった。その中で, 特記すべき植物は次の通りである。 ヒカゲノカズラ類 本地域には, この類では, ミヤマヒカゲノカズラ, アスヒカズラ, コスギラン, スギカズラの4種を産する。日本では従来この類に対して, ヒカゲノカズラ属だけを認めてきた。しかし, ROTHMALER (1944), LOVE & LOVE (1958,1961,1965,1966)などの見解のように, 広義のヒカゲノカズラ属の異分子の集まった群にすぎない。そこで筆者は, 1964年にFlora Europaea 1 に発表されたROTHMALERの見解に賛意を表し, 広義のヒカゲノカズラ属 (Lycopodium s. lat.) を4属, すなわち, アスヒカズラ属(Diphasium), コスギラン属 (Huperzia) , ミズスギ属 (Lepidotis) および狭義のヒカゲノカズラ属 (Lycopodium s. str.) に分割する説を採用した。その結果Diphasium alpinum var. planiramulosum (TAKEDA), Huperzia selago subsp. patens (BEAUVOIS) という組合せが誕生した。 イワウサギシダ 従来イワウサギシダは, Gymnocarpium robertianumそのものとみなされたり, その変種とされたり, 独立種と考えG.jessoenseが起用されたりしている。筆者は, 極東亜のものはG.robertianumの亜種と考え, G. robertianum subsp. longulum (CHRIST) という組合せを作った。 エゾネギ このエゾネギの群に属する日本の植物はエゾネギ, ヒメエゾネギ, シロウマアサツキ, シブツアサツキで, 全部をAllium schoenoprasumの変種としたり, シロウマアサシキにA. maximowicziiを起用し, シブツアサツキをその変種または品種とみなしたりしている。筆者は本地域産の標本を中心として, 日本の他地域および, A. schoenoprasumのタイプロカリティーの一つであるスカンジナビアの標本を多数検討した結果, 日高・夕張地域産の形は, 非常に変異の多いA. schoenoprasumそのものであるという結論に到達した。 ケナシミヤマキンポウゲ 北海道の匍匐枝を出さない高山のキンポウゲは, ある時はミヤマキンポウゲとして扱われ, ある時はケナシミヤマキンポウゲとされ, さらに小型のものには, コミヤマキンポウゲという名が与えられたりしたが, 筆者はカムチャツカから1914年KOMAROVにより記載されたRanunculus subcorymbosusをR. acrisの亜種と考え, その性質を少し広く適用して, 本地域産のものも含め北海道の高山帯に産する毛のすくない形のキンポウゲを, 本亜種に包含させるのがもっともよいと考える。
- 国立科学博物館の論文