北海道日高山系の唇脚類
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概要
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北海道の唇脚類は, 現在までのところ高桑(1940,1942) および篠原 (1957,1968) により, ゲジ類1種, イシムカデ類6種, アカムカデ類1種およびジムカデ類15種の合計24種が既知であった。それら既知種からみて, 南西部の渡島半島は他の北海道主部とは唇脚類相において異なるように思われるが, それらは今後の研究にまつほかはない。唇脚類は今回調査の対象となった日高系からまったく知られていなかった。本報告には日高山系の最高峯, 幌尻岳(海抜2,052m)の山頂付近および山麓において採集された唇脚類の同定結果ならびに2新種の記載を含んでいる。幌尻岳から採集された種は次のとおりである。1) ニホンエスカリジムカデEscaryus japonicus ATTEMS 2) カラフトエスカリジムカデEscaryus sachalinus TAKAKUWA 3) シミヅメジムカデProlamnonyx dentatus TAKAKUWA 4) モイワジムカデTygarrup moiwaensis TAKAKUWA 5) スミジムカデBrachygeophilus dentatus TAKAKUWA 6) キタスコリジムカデScolioplanes acuminatus LEACH 7) オグリイッスンムカデBothropolys ogurii MIYOSI 8) アオキイシムカデ(新称)Lithobius (Archilihobius) aokii sp. nov. 9) Lithobius (Archilithobius) sp. 10) ホルストヒトフシムカデMonotarsobius crassipes holstii POCOCK 11) Monotarsobius spp. 12) コブイシムカデ(新称)Nampabius japonicus sp. nov.以上12種のうち1)〜6)のジムカデ類についてみれば, 本州に分布するものは1種もなく, E. japonicus, E. sachalinusおよびS. acuminatusはシベリア大陸と共通の種であり, 日高山地のジムカデ相が大陸と類縁関係が深い証拠となる。7)〜12)のイシムカデ類では, Bothropolys oguriiは本州の長野県の洞窟から記載されたものであるが, 今回第2の産地として日高が知られたわけで寒地系の種と思われる。特記すべきことはNampabius(コブイシムカデ属, 新称)に属する種が得られたことである。その属はMonotarsobiusや, Pokabiusなどに近い形態で, 雄の第14歩肢の脛節末端に2次性徴としての円筒形の突起をもつことで区別されている。従来北アメリカ大陸から数種が知られているほか, シベリアやコーカサスにも分布している。このような属の種が北海道日高の幌尻岳から得られたことは, 北海道が動物地理学的に北アメリカ, シベリアからコーカサスに及ぶ全北区系のうちの一地域を構成する証拠であり, ジムカデ目とともにイシムカデ目においても, 明確に北海道が本州とは異なる種類組成をもっていることを示しているものと思われ, はなはだ興味ぶかい。
- 1972-11-30