北海道の高山帯で採集された Pleosporaceac 菌10種について
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概要
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Pleosporaceae は各種の維管束植物上に生ずる子嚢菌綱の膨大1な科で, 広く分布するが, その種類の同定は必ずしも容易でない。最近 MULLER (1950), HOLM (1957), WEHMEYER (1961), BOSE (1961) 等はこの群の菌の分類学的研究を発表して, その研究に便を与えた。日本におけるこの科の菌に関する研究は, 従来主として植物病理学の見地から行なわれてきたが, まだ少数の種類が報告されているに止まるのは遺憾である。筆者らは日本産の種類の全容を明らかにすることを企図しているが, ここには主として北海道の高山帯で採集した10種の菌について記述した。これらのうち2種は新種と判定されたもので, 残り8種のうち Leptosphaeria doliolum 以外は新たに日本産を確認したものである1. Leptosphaeria ogilviensis (BERK. et BR.) CES. et DE NOT. 上下がおしつぶされた扁球形の偽嚢殼を寄主植物表皮下に生ずる。その子嚢胞子は長紡錘形で, 黄色∿淡褐色を帯び, 5隔膜を生じ, 中央の隔膜で明らかなくびれが見られ, 第3細胞が膨大する。筆者等は礼文島桃岩附近および日高アポイ岳でヨツバシオガマ, ホソバトウキの枯茎上より採集したが, かなり広く分布するようである。2. Leptosphaeria doliolum (PERS.) CES. et DE NOT. 高山帯だけでなく, 低地帯にも広く分布する種類で, いろいろの植物の表皮下に比較的大形の偽嚢殼を形成し, 後表皮を破って露出する。殼壁はかなり厚くかつ比較的固い。その表面には同心円状の皺襞が認められることが多い。子嚢胞子は紡錘形で4室, 黄褐色を呈する。この種類はかなり変異に富み, HOLM (1957) は L. doliolum s. str. と var. conoidea との識別を提唱している。ここではこの種類を広義に解釈して取り扱うこととしたが, 筆者らの得た菌は var. conoidea に近い。3. Nodulosphaeria dolioloides AUERSW. apud RABENH. 亜球形の偽嚢殼は寄主植物の表皮下に生ずるが, 通常乳頭状の頸を突出する。その頂孔の内面は黒褐色の剛毛で縁取られる。子嚢胞子は長紡錘形∿円筒状で, 8∿11隔膜を生じ, 第4あるいは第5細胞が膨大する。その色はオリーブ褐色. HOLM (1957) によればヨーロッパの標品ではその子嚢胞子がほとんど常に8隔膜で, まれに9隔膜だが, 北米産の標品では10∿11隔膜のものがしばしば見られるという。筆者等の得た標本では概して隔膜数が多く, 北米産の標品に近いと思われる。北海道ではキク科植物の枯茎上にごく普通に見出だされる。4. Nodulosphaeria franconica (PETR.) HOLM. ほぼ亜球形の偽嚢殻は寄主植物の表皮下に埋没して生じ, 小乳頭状の頸をつき出す。頂孔内面は黒褐色の剛毛で縁取られ, 子嚢胞子は長紡錘形∿円筒形, 5∿6隔膜を有し, 第3細胞が膨大するのを特徴とする。その色は淡オリーブ褐色。筆者らはアサギリソウ上より見出だした菌を本種と同定したが, むしろ稀な種類といわれ, 従来もっぱら Inula 属 (オグルマ属)の植物上より採集されている。5. Nodulosphaeria nipponica sp. nov. 偽嚢殻はシナノキンバイ枯茎の表皮下に生じ, 亜球形, しばしば幾分上下におしつぶされた形となる。頂孔は暗褐色の剛毛に縁取られ, 子嚢胞子は長紡錘形, 4∿5隔膜を有し, 第2あるいは第3細胞が膨大する。その色は黄色∿黄褐色。この菌は Nodulosphaeria modesta (DESM.) MUNK に類似するが, 子嚢胞子の両端にはクッション状, 無色の附属体がないことで同種と区別される。シナノキンバイと同属の Trollius europaeus の枯茎上からは Leptosphaeria trolii (KARST.) MULLER が知られているが, その子嚢胞子は3隔膜なので本種とは別種と判断される。まだ該当する種類がないので新種と断定した。6. Phaeosphaeria eustoma (FUCKEL) HOLM. 球形あるいは亜球形の偽嚢殼はイネ科植物あるいはイグサ科植物の枯葉鞘あるいは枯稈の表皮下に生じ, その殼壁は比較的薄く, 軟らかい。子嚢胞子は紡錘形で, 両端鋭頭, 淡オリーブ褐色, 3隔膜を有し, 中央の隔膜で狭窄し, 第2細胞が膨大する。筆者等が日高ペテガリ岳のイネ科値物上より見出だした菌(標本 No. O. M. 149) は MULLER (1950) の Leptosphaeria typhae (KARST.) SACC. の記載によく合致する。しかし, HOLM (1957) によれば L. typhae は Phaeosphaeria eustoma の異名であるという。また筆者らが夕張岳のイグサ上より見出だした菌(標本 N0. O. M. 122) は MULLER (1950) の Leptosphaeria juncina に大体合致する。しかし HOLM (1957) によれば MULLER の L. juncina は誤りで, それも Phaeosphaeria eustoma であるという。ここでは HOLM の意見を採用することとした。北海道ではかなり広く分布する種類である。
- 1971-11-30
著者
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三川 隆
北海道教育大学札幌分校生物学教室
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大谷 吉雄
国立科学博物館植物研究部
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大谷 吉雄
北海道教育大学札幌分校生物学教室
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大谷 吉雄/三川
北海道教育大学札幌分校生物学教室/北海道教育大学札幌分校生物学教室
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