積立型保険をめぐる損害保険の変容に関する考察(庭田範秋教授退任記念号)
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概要
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本稿の目的は積立型保険によって伝統的な損害保険が変化してきたことを再確認し,かかる変化を損害保険の理論的側面,及び損害保険業の経営的側面から再検討することにある。まず積立型保険の史的展開は損害保険の普及,なかんずく中小保険業者の市場の狭隘化の打開を目指すものであった。その背景にはカルテル体制下での共済等のアウトサイダーの影響が強い。だが,やがては大手の参入により新局面を迎える。積立型保険は保険理論上,伝統的掛捨型の保険とは異なる要素があり,従来の理論との整合性から過去においても様々な問題を生じさせてきた。とくに保険期間の長期性と保険保護に加えて貯蓄性があることから,損害保険の本質的構成要素から乖離・逸脱するものも多い。さらにその貯蓄的性格が損害保険経営を投資依存型経営あるいは金融収益型経営へと誘導する。積立型保険の金融機能は,その金融収益の肥大化によって損害保険の本質的要素を稀薄化させる。しかし,保険業における業務的機能と利潤源泉との相互関係を整理し,金融収益が損害保険業においていかなる位置関係にあるのかを踏まえておかなければならない。この点につき損害保険における保障と金融との関係を,積立型保険の視点から考察する。
- 慶應義塾大学の論文
- 1993-04-25