経済団体にみる経営理念 : 中心問題のシフトと代表理念
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概要
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経済三団体(経済団体連合会,経済同友会,日本経営者団体連盟)の公表意見を用いて,わが国における経営理念の変遷の把握を試みるのが,本稿の目的である。ここに経営理念とは,「経営にたずさわるものの抱く経営機能に関する価値的要素」と広く定義し,検討を行なった。変化の把握にあたって,中心となる問題,指定された公益,経営理念の三要素を用い,これら要素よりなる体系的な変化として捉えた。ここで,「中心となる問題」とは,その時点で重要視される経営環境である。「指定された公益」は,経済団体の意見書において,示された限りの「公益」であって,真性の公益と合致するとは限らない。結論を要約すると,以下の通りである。第二次大戦直後期における労働運動の激化のもとにあっては,経済団体は,これに対処する経営理念を提示した。その際,「公益」として提示されたのが,経済の復興・自立である。その後,貿易・資本の自由化期にあっては,国際競争力の強化が示され,特に,国内企業間での,競争問題に焦点をあてた理念が提示された。公害・消費者問題をはじめとする,高度成長のヒズミが顕在化した時期には,経済と社会との調和が「公益」として指定され,「社会的責任」論に代表される理念が示された。その後,石油危機を契機として,経済が,相対的な「低」成長期を迎えると,経済の活性化に代表されるような,停滞の回避が「公益」として指定され,技術革新をはじめとする企業の経済力の強化を中心とする理念が提示された。そして, 1985年の「円高」を直接の契機として,国際性を軸とした理念が提示される。この時点で強調される「公益」は,世界への貢献である。
- 慶應義塾大学の論文
- 1992-08-25