囚人のジレンマと道徳性(野口祐教授退任記念号)
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概要
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アマティア・セン(Amatya Sen)は,純粋経済学のモデルが「合理的愚か者(rational fools)」と言えるような貧弱な仮定に支えられていると批判し,この功利主義的なモデルの根本的見直しを主張した。センは,個々の個人の合理性の追求が社会的な最適性と葛藤をもたらす例である「囚人のジレンマ」に着目し,この問題の解決を図った。彼は道徳判断を表現するために選好のランクづけのランクづけ(メタランクづけ)を考え,利己主義的に振舞う「PD(囚人のジレンマ型)選好」に替え,お互いに相手が自分と同じことをする保証のある「AG(保証ゲーム)選好」や,他人を見捨てない態度を堅持する「OR(他者考慮的)選好」を持っているかのごとく振舞えば,より望ましい状態になると主張した。このセンのモデルは,従来経済学理論が分析し得なかった問題-例えば団体交渉,組織における動機づけ,また日本的経営-にも光を当て得るという点で,大変有望であると考えられる。しかしワトキンス(J. Watkins)やベイアー(K. Baier)はこのモデルにも重大な論理的問題点があることを示した。彼らは,1)選択は相手についての情報,相手の自分に対する情報,またそれについて自分が持っている情報,等によって決まるため,道徳的な行為も利己的な行為も結果的に変わらないこともある。2)OR選好を最も上位にランクづけることは,相手にとってよくない行為も自分で引き受けるという利他主義を採ることであり,これは個人の本来的・一次的な選好に抵触する非合理な行為仮定である。そのため,AG選好やOR選好を保有することでジレンマは消失するというセンの主張は成立しない,とされたのである。ワトキンスとベイアーが主張するように,個々の個人が非利己的な選好を持つということだけではこの問題は解決されないというのであれば,われわれは,社会的最適性=協調解)の実現の条件について改めて見直す必要があると思われる。
- 1992-04-25
論文 | ランダム
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