中小企業会計の研究 : 記帳・記録保存制度を中心に(峯村信吉教授退任記念号)
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概要
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本稿は,最近の中小企業会計問題として,注目すべき税法上の「記帳・記録保存制度」を取上げて考察した。まず,中小企業会計の動向のなかで,この制度を位置づけた上で,この制度の経緯・内容と問題点を紹介した。次に,この制度の中心的な「記帳義務」と「会計帳簿」の主に二つの点を取上げて検討し問題点を指摘した。第1の「記帳義務」の規定は,税法が特別法とはいえ小商人について基本法の商法規定との矛盾を生じてきていること。さらに,記帳義務は,法によって義務づけられるのでなく,自からの必要性によって記帳すべきである。帳簿への記帳は,法規制するのでなく,中小企業の指導・普及のための体制づくりこそが重要な課題となるであろう。第2の「会計帳簿」について,商法では会計帳簿と貸借対照表とを商業帳簿と名づけている。会計帳簿は,仕訳帳,総勘定元帳をいう。これに対して,税法では益金と損金とを記載した帳簿を会計帳簿として,記載事項を法定化している。いずれにしても,商法・税法はともに会計帳簿そのものの概念規定をしていない。むしろ,会計帳簿自体が,時代の変遷にともなって変化してきていることを明らかにした。この「記帳・記録保存制度」は,中小企業会計の統一化の動向のなかで,大企業会計との関連で理解する必要があること,この制度が形式から実質へと計数的統制の浸透を意味するものであるとともに,記帳義務の強制によって今日的に増税策の手段に,とくに間接税導入の布石として機能する可能性があると考えられる。さらに,この制度が,これを手がかりに,事業・不動産・山林所得の三所得から他の所得への波及効果の恐れがある。増税策が,中小零細所得者への重点課税でなく,大企業重点課税の方向へ行くべきであり,逆行といわざるをえない。商法改正とも関連させながら,今後の中小企業会計の動向に注目することが必要である。
- 慶應義塾大学の論文
- 1986-12-25
著者
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