下歯槽動静脈・神経の切断が歯の移動に及ぼす影響
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概要
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血管や神経が損傷を受けると, その支配下組織に影響を及ぼすといわれ, 血管や神経を切断あるいは結紮して行われた実験が若干数報告されている.歯科矯正学の分野においても歯の移動と血管・神経の変化等について行われた研究は種々みられるが, 血管・神経の損傷が歯の移動に及ぼす影響について実験されたものはみられない.そこで雌の成猿9頭を用いて下歯槽動静脈・神経を片側のみ切断し, 左右の同名歯に矯正力を加え, 血管・神経の損傷が歯の移動に及ぼす影響を観察するために実験を行った.実験に用いた全てのサルは右側を実験側, 左側を対照側として, 下歯槽動脈・神経を右側の下顎孔部で切断し, 下顎左右第一大臼歯を抜去, 第二小臼歯と第二大臼歯を相反的に牽引した.移動方法は牽引群として傾斜移動5頭, 歯体移動2頭を用い, さらに非牽引群として2頭は矯正力を加えずに観察した.移動開始から約8週間後の第二小臼歯と第二大臼歯間の距離計測を行い, 左右の移動距離を比較するとともに, H-E染色およびprosion redによる時刻描記所見を組織学的に観察した.その結果, 対照側に較べ実験側では以下の結果が認められた.1. 歯の移動距離が少なかった.2. H-E染色所見では, 圧迫側における破骨細胞や吸収窩が少なかった.3. H-E染色所見ならびに蛍光顕微鏡所見では牽引側の骨の新生量が少なかった.4. 歯根の吸収の程度には差を認めなかった.5. 非牽引群においては, 計測距離に変化はみられなかったが, 組織所見では実験側の骨改造現象が劣勢であった.以上の結果から, 血管・神経の切断は矯正学的な歯の移動に影響を及ぼすことが示唆された.