実験的歯の移動に伴う歯根吸収の開始機序に関する組織学的研究
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概要
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矯正的歯の移動により, しばしば歯根吸収が認められる.しかし, 歯根吸収がどのように開始されるかについては現在でも不明な点が多い.本研究では, 歯の移動に伴う歯根吸収の開始機序の解明を目的とし, ラット上顎第一臼歯を実験的に近心方向に移動させ, 移動後1日から7日までのすべての歯根周囲で発現する歯根吸収を酒石酸耐性酸性ホスファターゼ(TRAP)活性を破歯細胞のマーカーとして用い, 組織化学的に観察した.移動後1日では, 根尖部の歯根表面にTRAP陽性の単核細胞が出現し, セメント質表面に細胞突起を出し, 接触している像がしばしば観察された.移動後3日になると, 圧迫側の硝子様変性組織周辺の歯根表面に多数の単核あるいは多核のTRAP陽性細胞が認められた.また歯根膜組織の変性を示さない圧迫側の歯根表面でも単核のTRAP陽性細胞が観察されるようになり, 一部では多核のTRAP陽性細胞により吸収窩が形成されていた.一方, この時期に牽引側の歯根表面にも, TRAP陽性の単核細胞がしばしば観察された.移動後7日では, 特に圧迫側の硝子様変性組織周辺の歯槽骨の穿下性吸収に対応する歯根表面で, 多核のTRAP陽性細胞による歯根吸収が進行していた.今回の観察では, 移動後7日以内に発現した歯根吸収は, (1) : 圧迫側の硝子様変性組織周辺(63.18%), (2) : 硝子様変性を伴わない圧迫側(31.60%), (3) : 牽引側(5.22%)であった.しかし, どの部位の歯根吸収でも共通していたのは, TRAP陽性の単核の破歯細胞が歯根表面に出現し, 多核化し, 次第に吸収が進行することであった.