トランスジェニックカイコによる組換えヒトコラーゲン生産系開発の試み
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概要
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コラーゲンは細胞外マトリックスを構成する代表的タンパク質であり、医療分野を始めとする様々な産業分野において広く応用されている。しかし、現在用いられているコラーゲンの大部分は、ウシやブタの真皮等から抽出した動物組織に由来するものであり、ヒトに移植した場合、アレルギー反応を引き起こす危険性や、動物由来の病原体が混入する危険性が指摘されている。我々は、ヒトコラーゲン遺伝子を染色体内に組み込んだトランスジェニックカイコを作出し、安全な組換えコラーゲンをカイコが吐き出す絹糸から回収する生産系の開発を目指している。この試みの第一歩として、III型プロコラーゲンの三重らせん領域をコードする配列を約1/5に縮めた低分子コラーゲン(ミニコラーゲン)cDNAを作製し、これをカイコに組み込むことにした。また、遺伝子銃を用いた一過性の遺伝子発現系による検討で、C-プロペプチドを含むタンパク質は効率良く合成できないことが判明したため、この領域をコードする配列も取り除いた。プロモーターはフィブロインL鎖のものを用いた。また、組換えタンパク質の分泌を容易にするために、ミニコラーゲンcDNAの5'末端にフィブロインL鎖のcDNAを連結し、さらに3'末端には、タンパク質合成を簡便に検出するために緑色蛍光タンパク質(EGFP)のcDNAを連結した。この融合cDNAを、鱗翅目昆虫由来のトランスポゾンであるpiggyBacを基に作製したベクターに挿入し、これをカイコ卵に微量注入した。その結果、次世代のカイコから多数のトランスジェニック体を得ることができた。これらのカイコは5齢末期になると、緑色蛍光を発する絹糸を吐き出した。絹糸を回収してウエスタンブロット解析を行ったところ、ミニコラーゲンを含む組換え融合タンパク質を検出することができた。以上のように、トランスジェニックカイコによる組換えヒトコラーゲン生産系開発の第一段階として、その基盤技術を開発することに成功した。
- 日本結合組織学会の論文
著者
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田村 俊樹
農業生物資源研
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吉里 勝利
科技団・広島県組織再生プロジェクト:広島大・院理
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林 昌弘
科技団・広島県組織再生プロジェクト広島大・院理
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宗綱 洋人
科技団・広島県組織再生プロジェクト
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冨田 正造
科技団・広島県組織再生プロジェクト
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佐藤 勉
科技団・広島県組織再生プロジェクト
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安達 敬泰
科技団・広島県組織再生プロジェクト
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日野 里香
科技団・広島県組織再生プロジェクト
-
冨田 正造
科技団・広島県組織再生プロジェクト:テルモ(株)
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安達 敬泰
科技団・広島県組織再生プロジェクト:広島大・院理
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佐藤 勉
科技団・広島県組織再生プロジェクト:(株)高研
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