世界の鉄骨/アメリカ(<特集>鉄骨の生産構造の現状と将来)
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概要
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アメリカの研究活動が産業界と政府から支援されている関係で、研究者の立場から建設事情全般を概観できる。アメリカの建設界は、かつての交通網や超高層などの建設ラッシュは終焉し、改修・補強による再生の時代に入っている。木、鋼、コンクリート、レンガなど多様な建設材料からどれを選ぶかは国や地域によって様々であり、アメリカ国内においてもある特定の材料にシフトする大きなうねりといったものはない。橋については、鉄道橋は鋼でつくられるケースが多いが、道路橋は鋼とコンクリートの両方があり競争原理で決まっている。特に、中小スパンでは競り合っている。最近は、新たな建設よりも、耐震と疲労を配慮した補修工事が多い。建物については、スチール・ジョイスト(鉄骨プレファブトラスによる床組)の普及が著しく、中低層の事務所、住宅、学校、工場などに使われている。柱はH形鋼が多いが、鋼管も増えてきた。また、木材の高騰に伴い、軽量形鋼による住宅の建設が木造に置き換わる動きがある。これらに対応して、軽量形鋼の座屈、半剛接合、コンクリート充填鋼管、有限要素解析による模擬的実験などの研究が盛んである。アメリカで今最大の問題は、1994年ノースリッジ地震で150棟あまりの建築鉄骨の柱-梁接合部が脆性破壊し、最も耐震的とされていた鉄骨ラーメン構造の信頼が地に落ちたことである。これに対し、SACプロジェクトが発足して、破壊に対する設計法、既存建物の検査と補修方法に関する大規模な研究が進行している。アメリカの技術者は地面が常に静止しているとは限らないことを痛感したのである。(桑村仁)
- 1997-03-20