セラム島(東インドネシア)産スミレ属1新種
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概要
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セラム島ビナイヤ山の山頂域にスミレ属植物の生育することは,STRESEMSNNやEYMAの標本により知られていた。この植物は,JACOBS&MOORE(1972)以来,ヒマラヤ,インドからマレーシアにかけて広く分布するV. pilosaの極端な形で,恐らく亜種レ出るの分化を示すものと考えられてきた。筆者らは,1983, 85年のセラム島の植物相調査で,この植物を採取した。近隣地域のスミレ属植物と比較,V. pilosaの変異の検討の結果,新種として記載することが適当と考え,Viola binayensis M. OKAMOTO et UEDAと命名し発表する。V. binayensisは,柱頭が小さいこと,托葉が葉柄と合着しないことから,主としてニューギニア,オーストラリアに分布するErpetionグループとは本質的に異なる群と考えられる。また,V. pilosaを除くマレーシアのSerpentesグループとは,花柱の先端部が著しく肥厚しないことで,はっきりと区別できる。これらの理由により,本種の類縁関係を明らかにするために,V.pilosaの変異傾向を調べ,それとの比較を試みた。V. pilosaは,葉の大きさ,葉質などで,かなりの変異を示すが,本種のように完全に無毛で革質のものは見られない。花の形質に関しては,本種はV. pilosaの変異傾向の延長上にある。とくに,花柱の形態,花弁の毛の様子などの点で,セイロンのものと酷似を示している。果実の形質において,両者は決定的に異なる。V. pilosaは,果柄が倒伏しし,大きな附属体を持った種子を親株の下にこぼすという,典型的なアリ散布型果実である。本種は,果実が直立し果実には種子をはさみつけて,はじきとばす構造があり,種子の附属体は発達しない(自動散布型)。しかし,かなり大型の種子を小数いれるという点は両種に共通している。V. binayensisは明らかにV. pilosaと区別される独立種であるが,花の諸形質は,V.pilosaとの類縁を示唆している。
- 1986-09-30
著者
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岡本 素治
Osaka Museum of Natural History, Nagai Park
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植田 邦彦
Department of Botany, Faculty of Science, Kyoto University