ニューカレドニア産Acromastigum属(苔類)の研究
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概要
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Acromastigum属は苔類のムチゴケ科に属し,世界に約40種を数えるが,とくに熱帯アジアで多様に分化している.ニューカレドニアからは従来10種が知られていたが,本報では,主として岩月善之助博士(現,広島大学)と私が1982年に行った現地調査によって得たコレクションに基づき,12種を報告した.そのうちの3種は新種であり,1種がニューカレドニアに初記録の種である.ニューカレドニアの本属の一般的な特徴は種々の乾生形態を示すことである.すなわち,植物性は小さくて硬い,葉は密に重なる,細胞は小さく,細胞壁は強く肥厚する,クチクラはベルカを生じるなどの性質を多くの種が共有している.特にA. homodictyonとA. stellareは乾燥気候に対する適応形質と見なされる特異な構造をもっている.この両種では,葉や茎の細胞が二重構造をなし,各細胞の中に,それ自身の細胞壁をもつ細胞が収まっている.そして,葉や茎が壊れて外側の細胞壁が破れると,中の細胞が放出されるが,母体から放れたこの細胞は無性芽として働くものと思われる.本属の種の固有率は高く,本報で記録した12種のうちの8種がニューカレドニアに固有である(他の4種のうちの2種は近隣の島のニューヘブリデスとの,残りの2種は最寄りの大陸オーストラリアとの共通種である).また,大部分の種はニューカレドニアの島内においても分布がごく狭く限られている.それらは局地的に多産する(特に南部の蛇紋岩地帯に多い)が,島内に広く分布することはない.ニューカレドニアのAcromastigumについて述べた上記の形態や分布の特性は他の属の苔類にも広く当てはまる.すなわち,植物体はおおむね小さくて硬く,壊れやすい(植物体が大きく軟弱なものは少ない).また,基物中に下垂するマルスピウムも乾燥気候に対する適応形態と見なされるが,ニューカレドニアにはこの特殊な生殖器官をもつものが多い.すなわち,Adelanthus, Balantiopsis, Goebelobryum, Geocalys, Lethocolea, Marsupidiumなどが目立ち,これらの属では地中や腐木中に埋もれたマルスピウム内で胞子体が発達する.ニューカレドニアは日本の四国とほぼ同じ面積を有する島であるが,島内の地形,地質,気象などの自然環境は多様であり,その違いに応じて苔類のフロラも顕著に異なっている.特に島の北部と南部はお互いに大きく異なっており,またそれぞれの地域内においても山ごとに異なると言っても過言ではない.私達は6週間の滞在中に島内をかなりまんべんなく調査し,2,000点余りの苔類の標本を得た.採集した多くの種は分布が局地的に限定されており,1点の標本しか得られなかった種も少なくない.この事実から判断して,私達が調査しなかった地域に,未採集の種がまたかなり残っているものと思われる.
- 1985-11-30