企業の社会的責任と経営の指導原理
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概要
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企業は環境ないし広義の社会の所産であり、その存続・成長は企業の内外をめぐる環境主体ないしステークホルダーの期待をそれが適切に充たしうるかに、とりわけ掛かっている。企業の社会的責任とは、企業ないしその主体としての経営者が環境主体の期待に応えることを意味する。多様な環境主体のさまざまな期待への応答をその目的に織り込むことを必要とする現代の「制度」的企業にあっては、かかる社会的責任には種々のものが含まれるとともに、そのような責任は用いられる分類・整理基準に従って幾つかに分類が可能である。このような社会的責任の展開の動向についていえば、企業はまず、財・用役の供給とその反面としての獲得収益の関係者への配分という、社会でのその基本的な経済的役割を市場で遂行していく過程において、市場権力の乱用を自制することを社会的責任として課せられた。ついで、社会の産業化の進行につれ、地域社会の自然環境の汚染・破壊や職場での人間性疎外、等が顕著となるに伴い、企業は上記のその基本的役割の遂行過程から派生する幾つかの社会的弊害への対応を社会的責任として課せられるようになる。続いて、社会のひとびとの価値観の変化や企業経営の国際化の展開の中で、企業は均等な雇用機会の提供、製品や職場における安全の確保、等の新たな派生的責任に、ならびに経営の国際化をめぐる責任に直面するに至る。近年においては、地球環境問題その他が広く社会のひとびとの関心を集める中で、こうした社会問題の解決に向けてとり組むという社会的責任が、企業の社会的責任として出現している。また、自由化・国際化、規制緩和・撤廃の中での企業間の競争の激化は、社会におけるその第1次的な経済的役割の持続的・拡大的遂行を意味する企業の維持・発展こそが基本的な社会的責任であることを示している。このように、時代の経過に伴い新しい責任が既存責任に付け加わることになるのであって、今日の社会的責任は企業維持責任の上に派生的責任、社会貢献責任が順次、重なる重層的構造をなすとともに、それはこれら諸責任の総体としての総合的責任として存在することになる。この場合、上層の責任ほど、企業の基本的役割との関連性、個別企業における責任問題の因果性が薄れるのであり、企業による責任引き受けの限界や正当性が問題となる。以上のような社会的責任は法や市場が企業に強制的に課している責任を含む一方、これら強制的責任は社会的責任の下限をなすに過ぎず、責任の中核は、社会貢献責任を含めて、その受け入れが企業の自発的意思にまかされるところの自発的・自由裁量的責任によって構成されるとみてよい。すなわち、社会的責任の基本的特質は、責任の受け入れにおける企業の自発性の余地の存在にある。しかしながら、企業活動の成果、企業の意思決定、経営情報への、更には企業の所有への環境主体の参加の意向が強まっている現代の企業にあっては、責任の自発的引き受けは不可避となっている。企業はその決定と行動における自由を維持せんとするならば、社会に対するその権力に照応する責任の受け入れを回避しえない。「参加の時代」ともいいうる現代の社会では、権力と責任の均衡の法則が一段と作用するに至っているといいうる。企業環境主体の権利・利益の尊重に向けての経営者の規律づけの問題を中心にコーポレート・ガバナンスのあり方が今日、社会の諸領域でひとびとの関心を集めていることは、企業による社会的責任の受け入れのこのような不可避性を強化するものでもある。なお、企業の社会的責任をめぐっては、環境主体の多様化・多機能の傾向および、そうした中での社会経済の変容化傾向を指摘しておく必要がある。企業の環境主体はその種類において多様化する一方、企業へのその係わりの動機・仕方も複雑化する方向にある。後者の例としては例えば、いわゆる社会的責任投資の展開にみられるような、一部投資家の投資動機の変化や、自然環境への製品・用役や企業活動の影響の程度をも購買における考慮要素とする環境志向的消費者の出現を挙げることが出来る。こうした動きは、コーポレート・ガバナンス構造を通じてのみならず、市場での取引を通じて企業をより社会的責任志向たらしめうるであろう。幾つかの生じつつある市場経済の新たな潮流は、社会的責任指向の企業経営と伝統的な市場指向・営利指向の企業経営との統合の可能性を、少なからず示唆するようにみえるのである。本報告では現代企業のこのような社会的責任について、ならびにこれからの経営の指導原理とその課題について述べたあと、指導原理の企業内在化の必要性と内在化における経営教育の意義に関しても触れることにしたい。
- 日本経営教育学会の論文
- 1999-06-25
著者
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