ヒスタミン生合成を介して発現する生理機能の解析
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概要
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ヒスタミンは炎症,アレルギー,胃酸分泌,神経伝達と言った生体反応を調節する生体アミンであり,そのアンタゴニストはアレルギーや消化性潰瘍の優れた治療薬として長い歴史を有している.近年ではヒスタミンはそのような作用に加えて,腫瘍増殖や免疫応答の調節にも関与することが報告されており,生体内の広い範囲で多彩な作用を有することが明らかにされている.ヒスタミン産生細胞としてはマスト細胞や,好塩基球,ECL細胞(enterochromaffin-like cell)などがよく知られているが,いずれの細胞においてもヒスタミンは顆粒内に貯留され,刺激に応じて細胞外へと放出される.放出されたヒスタミンは標的細胞の特異的受容体を介してその作用を発揮するが,現在のところ4種のGタンパク質共役型受容体が特異的受容体として同定されている.炎症,即時型アレルギーに関与するH_1受容体,胃酸分泌反応に関与するH_2受容体は,いずれもアンタゴニストが臨床で成功を収めており,基礎的研究も比較的進展している.一方,中枢特異的に発現するH_3受容体,血球系細胞特異的に発現するH_4受容体はごく最近遺伝子がクローニングされ,新たな創薬の標的として注目を集めている.従来の研究では薬理学的手法による受容体研究とそのリガンド開発,あるいは脱顆粒機構の解析に重点が置かれてきたことから,ヒスタミン生合成過程に関しては不明な点が数多く残されていた.しかしながら,生合成酵素であるヒスチジン脱炭酸酵素(L-histidine decarboxylase;HDC)は誘導性の酵素であり,刺激に応じて数倍から百倍以上にも酵素活性が上昇することが様々な系において報告されており,合成を介したヒスタミン作用の調節という観点に基づいた研究が必要と考えられた.HDCに関してはいくつかのグループが精製を目指していたが,同様にビタミンB_6を補酵素とする他の脱炭酸酵素のグループと比較するとその精製は困難であった.著者の所属する研究室ではマウス癌化マスト細胞株,P-815からHDCの精製を行いその部分配列の同定に初めて成功し,引き続きそのcDNAクローニングを行った.その結果,精製酵素は53-kDaの分子量から成る2量体であるが,cDNAがコードするタンパク質の分子量は74-kDaであり,HDCにおいて翻訳後プロセシングが起こっている可能性が示された.そこで著者らは特異的な抗体を作製し,マスト細胞内におけるHDCの翻訳後プロセシングを解析し,その役割が酵素の細胞内局在性を調節することにあることを見い出した.ヒスタミンが細胞内においてどこで合成され,またどのような機構で顆粒に貯留されるのかは従来不明であり,HDCの細胞内局在を明らかにすることはその解明につながる知見である.著者らはその後,ヒスタミン生合成という観点からその生理作用を解析し,近年はHDC欠損マウスを用いてヒスタミン合成が重要な機能を果たす生理現象の解明に努めている.本総説では,著者らが得たヒスタミン研究の成果を中心に,ヒスタミンの機能に関して近年新たに得られた知見を併せて紹介する.
- 公益社団法人日本薬学会の論文
- 2003-07-01
著者
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