脂肪細胞分化初期に発現が変動する遺伝子群の単離及び機能解析
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概要
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肥満は糖尿病,高脂血症,動脈硬化症などの生活習慣病のリスクファクターとして,現在大きな問題となっている.肥満とは,エネルギー摂取と消費のアンバランスにより体内に過剰な脂肪組織が蓄積した状態である.肥満の形成には成熟脂肪細胞がより多くの脂肪を蓄積し,その体積を増加させること(肥大化)だけでなく,前駆脂肪細胞が成熟脂肪細胞へと分化し,その数が増えることも重要であることが分かってきた.すなわち,肥満,そして肥満が引き起こす疾病の治療を考える際には脂肪細胞の肥大化に加え,前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化のメカニズムを解明することが非常に重要であると考えられる.脂肪組織を構成している脂肪細胞の分化とその調節機構については,初代培養細胞株や株化培養細胞系を用いて分子レベルでの研究が進んでおり,PPARγ(peroxisome proliferator-activated receptorγ)やC/EBP(CCAAT/enhancer binding protein)ファミリーが重要な役割を担っていることが明らかになってきた.これらの遺伝子についてはノックアウトマウスによる検討も行われ,それぞれの因子が生体内においても重要な機能を果たしていることが明らかになってきている.しかしながら,脂肪細胞に分化する最も初期における分子メカニズムはほとんど明らかになっていない.脂肪細胞の分化初期には分化を決定するダイナミックな遺伝子発現やシグナル伝達機構の変化が起きていると予想され,脂肪細胞分化の分子メカニズムを解明する上で必要不可欠であると考えられる.そのため筆者らは,脂肪細胞分化初期過程の分子メカニズムを解明することを目的として研究を続けている.本稿では,これまでの筆者らの検討結果を中心に,脂肪細胞分化初期過程の分子メカニズムについて概説したい.
- 公益社団法人日本薬学会の論文
- 2003-11-01