O-マンノシル型糖鎖とその異常による先天性筋ジストロフィー
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概要
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ヒトのゲノム構造,いわばヒトの体の設計図がほぼ明らかになり,単語を網羅した辞書ができ上がった.現在辞書にあるそれぞれの単語からどのように意味のある文章が作られるか,つまり各遺伝子から翻訳されて作られるタンパク質の機能や生体内における役割を明らかにし,多くの生命現象を理解しようとする,いわゆるポストゲノム研究が盛んに行われている.ところでタンパク質はリン酸化や糖鎖付加などいわゆる翻訳後修飾を受けることはよく知られており,こうした修飾を受けることによって初めて機能を持つようになることはけっして少なくない.データベースからいろいろな翻訳後修飾の頻度を予測してみると,糖鎖修飾が約半数と圧倒的に多く,タンパク質の50%以上は糖鎖が付加されていると考えられている.糖鎖がタンパク質機能に対していかに関与し,機能的に不完全なタンパク質に機能を付加するかは,ポストゲノム研究として避けて通れない重要な研究テーマであり,事実糖鎖付加の必要性が数多く報告されている.糖鎖がどのような構造を持ち,その糖鎖がどのような生物学的あるいは病理的な意義を持つのかを明らかにすることは,多細胞生物で営まれている様々な生命現象を理解する上で今後ますます重要な研究分野となるであろう.糖鎖は単糖が1つ1つ付加されて作られる.この糖の付加は,糖転移酵素によって行われる.糖転移酵素はタンパク質であり,遺伝子によってコードされている.糖転移酵素遺伝子は300程度あると考えられているが,これまでにおよそ120が明らかにされている.糖転移酵素によって作られる糖鎖は遺伝子の直接の産物ではなく,遺伝子の2次産物であると言える.Figure 1(A)に模式的な例を示したが,この例では6つの糖転移酵素が1から順番に働き6つの糖からなる糖鎖が最終的に形成されるとする.もし仮に中間で働く糖転移酵素4が活性を失ってしまうと,例え次に働く糖転移酵素5や糖転移酵素6があっても最終的に形成される糖鎖は3までで終わってしまう.なぜならば糖転移酵素には厳密な基質特異性があり,糖転移酵素5や糖転移酵素6は糖3に直接働いて糖鎖を伸ばすことができないからである.したがって,1つの糖転移酵素の異常は,最終的に作り出される糖鎖に大きな影響を及ぼすことが分かるであろう.糖鎖の作られ方にはこうした特徴がある.本稿では,ユニークな糖鎖の発見と,その糖鎖がきちんとできないと我々の体は大きな不都合が生じ,神経細胞遊走異常を伴う筋ジストロフィーになると言う最近の糖鎖生物学の新知見を紹介したい.
- 2003-10-01
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