3.接地型住宅地における近隣コミュニケーションの現状と意識
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
本研究では接地型の住宅地として,一般的な戸建住宅地,分譲テラスハウスおよび市営住宅を選び,近隣コミュニケーションの現状と意識を,居住者に対する質問紙調査をもとに考察したものである。結果を要約すると以下のとおりである。(1)近隣コミュニケーションの第一歩と位置づけられる,住戸外に出る回数は,テラスハウスで最も少なく,戸建住宅では中間程度で,市営住宅で最も多い。またこれらの接地型住宅地では,住戸外に出る回数が高層集合住宅に比べて多い傾向がある。(2)親しいつきあいをしている人がいる割合は,男性では3〜4割,女性では6〜7割で,とくに戸建住宅の女性で親しいつきあいが多い。(3)立ち話をする人がいる割合は,男性では7〜8割,女性では9割以上で,とくに戸建住宅で多い。それに対して挨拶する人数は,テラスハウスと市営住宅のほうが戸建住宅より多い。戸数密度がやや高く,範囲を認識しやすい特徴ある住宅形態が,一つのまとまりとして居住者に捉えられていると考えられる。(4)近隣コミュニケーションのきっかけは,家が近いことの他に,子供や自治会の関係を通じてが多い。子供を通じては女性が多く,自治会はどちらかというと男性で多く,きっかけの得にくい男性にとって自治会の果たす役割は大きいといえる。(5)立ち話の場所は,日常的に通る玄関前や街区内の道路が多く,コミュニティスペースとして設けられた公園等は少ない。さらにコミュニティスペースとして,東屋や貸し菜園,ベンチ等の要求がみられる。(6)向こう三軒両隣におけるつきあいの状態は,「会えば挨拶する程度」「なかには立ち話する人もいる」「なかには親しい人もいる」が、約3分の1ずつで、必ずしも親しいつきあいが行われているとは限らない。意識としては,7〜8割が向こう三軒両隣にこだわらず気の合った人と付き合いたいと考えている。(7)近隣コミュニケーションとしておこなわれていることで多いものは,「旅行等のお土産のやり取り」「宅配物の預け合い」「食料品などのおすそわけ」「留守にするときの声かけ」「慶弔時の手伝い」である。一緒に出掛けるような親密なつきあいは,向こう三軒両隣に限られず離れた家との間にも生じている。「日用品の貸し借り」は高層集合住宅の方が多く,「留守にするときの声かけ」は接地型住宅地の方が多い。(8)近隣コミュニケーションについての意識は,つきあいの有無に関わらず,近所づきあいをしたいという肯定的な意見と,したくないという否定的な意見が,対象による差はあるものの全体としては約半数ずつで拮抗している。(9)市営住宅において,建設当初から住み続けている高齢男性の間に,長い年月をかけて形成された親密なコミュニティの事例がみられる。以上のような接地型住宅地においては,接地していることによって住戸外に出やすく,近隣コミュニケーションも少なからずおこなわれている。しかし,かつては近隣の基本単位であった,向こう三軒両隣におけるコミュニケーションは必ずしも親しいものではなく,近隣のなかでも気の合った人と必要なときにコミュニケーションがとれる状態であることが求められているといえる。住戸のタイプごとの形態と密度,そして市営住宅の例にみられるように,長く住み続けられるか否かが,近隣コミュニケーションに影響を与えていることがうかがえた。また,接地型住宅地においてはコミュニケーションのための空間が充実しているとはいえず,日常的に使用しやすい簡易は休憩の場所等を含めた,住環境の総合的な計画が必要とされていると考えられる。
- 2003-01-15
著者
関連論文
- 中国・北京旧城歴史文化保護区における現状と保存再生課題に関する調査研究
- 中国・西安市における四合院民居および集合住宅の屋外空間に関する比較研究-新四合院集合住宅のコンセプトの有効性の検討-
- 746 中国・西安市における四合院民居地区の保存再生に関する研究・その2 : 居住者の意向調査による新四合院集合住宅のコンセプトの検証(都市計画)
- 5051 在宅要介護老人の日常生活と住環境条件に関する研究 : 農村部(大津市仰木町)の事例調査
- 5150 千里ニュータウンにおける高齢者社会に対応した住環境に関する研究 : その6 寝たきり高齢者の日常生活行為と介護力および住宅形態との関連
- 5149 千里ニュータウンにおける高齢化社会に対応した住環境に関する研究 : その5 高齢者専用施設利用者のコミュニティ活動と施設に対する要求
- 5148 千里ニュータウンにおける高齢化社会に対応した住環境に関する研究 : その4 高齢者専用施設の利用実態と評価
- 5036 千里ニュータウンにおける高齢化社会に対応した住環境に関する研究 : その3 コミュニティ生活と施設要求
- 5035 千里ニュータウンにおける高齢化社会に対応した住環境に関する研究 : その2 高齢期のライフスタイル志向 -家族関係と居住形態, 介護・援助, 暮らし方の現状と希望-
- 5034 千里ニュータウンにおける高齢化社会に対応した住環境に関する研究 : その1 調査概要と将来へのライフスタイル-全体イメージ-
- 7185 既成市街地における居住地変容に関する調査研究 : 奈良市内既成市街地事例研究
- 5229 都市集合住宅地におけるコミニティ空間に関する研究 : 集会所の高齢者利用に対する考察
- 5108 集合住宅における住み方ルールに関する研究 : その2 ペットに関する近所迷惑と住み方ルール
- 5107 集合住宅における住み方ルールに関する研究 : その1 音に関する近所迷惑の実態と意識
- 5099 コーポラティブ住宅における住生活に関する研究 : その3 コミュニティ生活の現状と評価
- 5098 コーポラティブ住宅における住生活に関する研究 : その2 生活スタイルの特徴および変容
- 5097 コーポラティブ住宅における住生活に関する研究 : その1 コーポラティブ住宅に対する意識と評価
- 5003「計画戸建地」における住環境・コモンスペースの評価に関する研究 : ガーデンハウス真美ケ丘における事例調査 その3 コスモスペースのあり方を計画戸建の可能性
- 5002 「計画戸建地」における住環境・コモンスペースの評価に関する研究 : ガーデンハウス真美ケ丘における事例調査 その2 コモンスペースに関する評価
- 5001 「計画戸建地」における住環境・コモンスペースの評価に関する研究 : ガーデンハウス真美ヶ丘における事例調査 その1 住環境評価とコモンスペースの利用
- 紀州藩の数寄空間について : 紀州徳川家の江戸屋敷および家老三浦家の茶室を例として(丸山宣武教授退休記念号)
- 5138 集合住宅地における「集まり生活」と「集まり空間」に関する調査研究 : その3 公的集合住宅地における集会所のあり方
- 5137 集合住宅地における「集まり生活」と「集まり空間」に関する調査研究 : その2 コーポラティブ住宅地における集まり空間
- 5136 集合住宅地における「集まり生活」と「集まり空間」に関する調査研究 : その1 コーポラティブ住宅地における集まり生活
- 5079 コミュニティ生活の現状と発展に関する調査研究 : その2 平城ニュータウンのコミュニティ組織について
- 5078 コミュニティ生活の現状と発展に関する調査研究 : その1 コミュニティ形成の諸要因
- 3.接地型住宅地における近隣コミュニケーションの現状と意識
- 集合住宅におけるコミュニティ生活とコミュニティ形成要因
- 中国都市部における近隣コミュニティに関する研究 : 北京市内の居民委員会へのヒアリング調査を通して(丸山宣武教授退休記念号)
- 都市近郊の旧市街地にみられる伝統的コミュニティ生活に関する研究 : その2 旧村地域におけるコミュニティの現状と意識(萬英子教授 橋本惠以子教授退休記念号)
- 千里ニュータウンにおける高齢者のコミュニティ活動および高齢者コミュニティ施設に関する研究
- 都市集合住宅地における高齢者コミュニティ空間に関する研究 : 韓国、老人亭の利用に対する考察
- 既成市街地における居住者の定着性と居住地整備意識 : 奈良市既成市街地事例研究
- 「計画戸建地」におけるコモンスペースの評価に関する研究 : ガーデンハウス真美ヶ丘における事例研究 (3) : 計画戸建地におけるコモンスペースと近所づきあい
- 「計画戸建地」におけるコモンスペースの評価に関する研究 : ガーデンハウス真美ヶ丘における事例研究 (2) : コモンスペースのあり方と計画戸建の需要度
- 「計画戸建地」におけるコモンスペースの評価に関する研究 : ガーデンハウス真美ヶ丘における事例研究 (1) : 計画戸建地におけるコモンスペースの利用実態と居住者評価
- 奈良の景観問題に思うこと : 奈良
- コミュニティ生活の現状と発展に関する調査研究(1) : 平城ニュータウンにおけるコミュニティ活動について