日英の教科書にみる家族 : 子どもの社会化過程としての教科書
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概要
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教科書は子どもの社会化にとって重要な役割を担っている。したがって, 教科書に描かれた家族の中での子どもの位置や, 家族内で望ましいとされる行動には, それぞれの文化における実際の子どもの社会化過程が反映されていると考えられる。そこで日本の小学校1〜3年生用の国語の教科書に掲載されている作品51編と, イギリスの6〜9歳児用の国語の教科書に掲載されている作品61編に描かれた「家族」を取りあげ, そこに描かれた家族の成員構成と, 成員間の情報伝達形態の内容分析を行った。更に実際の両国の家族関係を参考にしながら, 教科書と実際の親子関係, 祖父母・孫関係についての考察を行った。その結果, 第1に家族の成員構成について見ると, 教科書において老人と同居している子どもの割合は, 日英間で有意差が認められないにも関わらず, 日本の教科書の方が祖父母が描かれている割合は有意に高かった。また日本の教科書の方がきょうだいのいない一人っ子が多いこと, 父親の出現頻度が少ないなどの点が指摘された。第2に家族成員間の情報伝達形態について, 親から子どもへという一方方向的な情報伝達形態が日本では見られるのに対し, イギリスでは相互発信的な情報伝達形態が見られた。ところが, 祖父母・孫間では日英間において親子間ほど相違が認められず, 同文化内の親子間と比較した結果, 日本ではむしろ相互発信的な情報伝達形態が認められ, イギリスではやや一方方向的な情報伝達形態が見られた。このことは同じ文化内でも家族内での子どもとの関係性の違いによって情報伝達が異なることを示している。これらの家族内での大人と子どもの関係を, 両国の統計や実際の家族像を描いた文献と比較した結果, 教科書は子どもの社会化の規定要因となる実際の家族成員間の関係や価値観, 更には親の葛藤までをも反映していると結論づけられる。
- 1995-07-15
著者
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