SII-7 7. 動脈硬化組織の蓄積脂質について
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概要
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ヒトを含む捕乳動物の動脈硬化の病理発生は, 内膜への平滑筋細胞の増殖, 内膜細胞内外への脂質の蓄積, 組織間隙への間質物質の貯溜という三つの過程をもとにおきるのが共通の特徴である。これら三つの変化のうちで, 脂質の蓄積は粥状硬化の発生と進展ないし退縮が始動的原因になりうると考えられる。動脈硬化組織に蓄積した脂質は, コレスジロールエステルとリン脂質を主成分とすることがしられているが, これらの蓄積脂質の物理化学的存在様相に着目し, 組織内環境下での存在様式を忠実に反映する方法を適宜応用しつつ解析すると, 蓄積脂質の存在様相として五種の脂質群を識別することが可能である。I 組織構造性脂質 : 内皮細胞や平滑筋細胞などの内膜を構成する細胞の形質膜のマトリックスをなす脂質, 間質物質のコラーゲン, エラスチン, 酸性ムコ多糖類と結合した脂質など内膜の構造に組み込まれた脂質群で, 硝酸銀染色により膜脂質が, 脂肪染色により間質物質結合脂質が染色され, 組織ホモジネートの3,800G×45'×3遠沈後のbottom fractionとして回収される。II リポ蛋白性脂質 : 血清由来のリポ蛋白が, 内膜の細胞質内と細胞間隙に溶けた状態で存在する脂質群で, 螢光抗体法により観察可能であり, 3,800G×45'×3の上清部で定量化される。III 液晶性脂質球 : 主として初期病変のfatty streakの泡沫細胞の細胞質内に, 一部細胞間隙に平均直径1.9μの巨大分子構造をとって折出した液体結晶性脂質球としての脂質群で, 偏光顕微鏡下で複屈折性を示す球体として観察され, 動脈硬化組織ホモジネートの3,800G×45'×3の表層から得られる。IV液体状脂質球 : 主として進行病変の破壊された組織間隙に折出して存在する球状の脂質で, 偏光に対して光学活性をもたない液体性脂質球としての脂質群で, 前者と同じ分劃で得られるが, 偏光顕微鏡下での観察以外に物理的に両者を分離する方法はしられていない。V 固形結晶 : 主として終局病変の構築の破壊された組織間隙に折出した板状の固形結晶としての脂質群。このように動脈硬化組織に蓄積する脂質を, その存在様式に従って五種に分類することにより, 動脈硬化の発症と進展ないし退縮の過程で脂質が果たす役割を詳細かつ統括的に解析しうる可能性が生じてきた。
- 1977-10-20