SII-6 6. 高血圧モデルにおける動脈脂肪沈着の機序
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概要
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高血圧自然発症ラット(SHR)や脳卒中易発症ラット(SHRSP)など疾患モデルの確立により, 高血圧, 脳卒中の実験病理学的研究が進展した。しかし, 動脈硬化の研究に関しては一般にラットは動脈に脂肪沈着を来しにくく, 不適当とされて来た。最近, 我々はラットで数種の動脈硬化モデルを作り動脈における脂肪沈着機序の研究をすすめている。すなわち, SHRSPや実験的高血圧ラットで高脂肪コレステロール(HFC)食を負荷した場合きわめて短期間に小動脈の脂肪沈着を来すことを見出し(Preparation I), 中でもHFC食負荷で反応性高脂血症を来しやすいラットの選択交配をつづけて1〜2週間のHFC食負荷で高脂血症と共に種々の中小動脈に著しい脂肪沈着を来す系統, Arterio lipidosis-prone rats (ALR, 1976)をえた。一方これらの高血圧モデルに対して正常血圧でも動脈に脂肪沈着を来すモデルも得ている。すなわち, 正常血圧ラットで頚動脈を結紮し, 脳底部動脈に脂肪沈着を来すモデル(Preparation II)および高血圧発症前ないし長期降圧治療で血圧を正常化したSHRやALRで主に腸間膜動脈などに脂肪沈着のみられるモデル(preparation III)である。Preparation Iにおいてはとくに高血圧の程度と脂肪沈着が順相関し, 高血圧の重要性が明らかになった。殊に脳底部の動脈では高血圧が脂肪沈着の決定的な要因である。peroxidaseなどを指標として調べると高血圧で動脈壁の透過性が分節状に亢進し, その部分に一致して脂肪の沈着すること, この動脈脂肪沈着は神経支配の多い血管によくみられ, 除神経でむしろ防がれ, カテコーラミン螢光法では透過性亢進部と神経末端の関係が示唆された。すなわち, 小動脈の脂肪沈着では血管の収縮・拡張など血管機能が透過性と関係し, 重要な困子となっていることが証明された。Preparation IIでは局所の血流動態の重要性が示され, Preparation IIIではALRなどで高血圧がなくとも動脈脂肪沈着がみられるところから, 単に高血圧のみならず血管壁の遺伝的素因の関与が示された。脂肪代謝素困としてはALRでは血清コレステロール値はむしろ低く, 肝の合成能は低下しているが, TriglycerideやFFAはむしろ高めで, HFC食を負荷した場合のみ高コレステロール血症を来すので吸収・分解の異常がある。血管局所の脂肪代謝に関してはエステラーゼのアイソザイムに遺伝的特徴がみられている。以上の如く新たに開発されたモデルによる研究から動脈脂肪沈着における高血圧, 脂肪代謝さらに血管素因の重要性が示された。
- 1977-10-20