SA-I 悪牲腫瘍細胞の組織化学 : とくに悪性腫瘍細胞にみられる変異の組織化学を中心にして
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概要
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癌に特異的な化学反応, ことに癌特有の酵素反応や代謝のパターンを見出すことは腫瘍の根本的課題である癌化の本態を明らかにするのみならず, 癌の化学的療法の基盤を解明することにも通ずるので医学的にも極めて重要である。細胞の代謝はすべて酵素反応によって制御されているものであるから, 生物学的にも, 癌の特異性は主として癌の酵素系の異常として表現されるものと考えられ, 癌に特有な酵素反応を見出す努力がこれまで無限になされてきた。同時に正常細胞に比較していろいろの酵素反応が量的にもどの様に相違しているかを生化学あるいは細胞化学の立場からいろいろ研究されてきたが, 今日まで悪性腫瘍の木質を明らかにしうる様な生化学的知見はいまだ確立されていない。ことに悪性腫瘍細胞の形態学的特長の一つとして細胞の異形性, 多形性があげられている。従って腫瘍を一塊として扱う生化学的研究方法では悪性腫瘍の本質を明らかにするのは極めて困難であると考えられ, この問題を解決するために組織化学あるいは細胞化学的研究に非常に多くの期待がかけられた。しかしよく知られているごとく, この組織化学的手技とくに酵素の組織化学的方法は, 現在応用しうる反応の種類に著しく制限があり, 同時にその定量的判定が困難であるために, 悪性腫瘍の本態解明の上では必ずしも満足すべき成績はえられていない。しかし, とくに組織化学的反応は反応物質の局在を明瞭にする上で著しくすぐれているので, 悪性腫瘍の鑑別診断の上からも, また細胞の変異の状態を形態学的に把握する上からも非常に卓越した成績を与えるものである。とくに形態学的にはしばしば非常に鑑別の困難である非上皮性悪性腫瘍, とくに間葉由来の肉腫細胞の診断に組織化学的方法を応用することは非常に重要であることについてまず私達は強調したい。同時にとくに間葉由来の非上皮細胞は, in vitroの状態で長期間継代培養を続けている過程で多様の変異細胞が出現してくる。その変異の一つに悪性転化という現象がみられるわけであり, 試験管内自然癌化である。とくにマウスの種々の間葉細胞に試験管内自然癌化がよくみられることをわれわれは経験しているが, この様にして発生をみたいろいろの間葉系肉腫細胞の組織化学, 電顕所見, 二三のアイソザイムの知見について報告したい。同時にこの様にして発生をみた悪性腫瘍細胞はin vivoで継代移植を続けている場合にはいわゆる悪性度-可移植性の消失をみることはないが, in vitroのまま長期間継代培養を続けていると, 試験管内では旺盛に増殖するにもかゝわらず, in vivoに移植した場合, 成熟動物では腫瘍の形成がみられず宿主を腫瘍死させえない細胞-可移植性消失細胞(いわゆる脱癌細胞)に変異する。この様な悪性腫瘍細胞にみられる変異を, 染色体の変化に対応させながら, 組織細胞化学的に検討し, 悪性腫瘍細胞の特長である可移植性について組織化学の立場から考察を加える予定である。
- 日本組織細胞化学会の論文
- 1977-10-20
著者
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