サンにおける養育行動とその発達的意義 : ジムナスティック・授乳場面の特徴
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概要
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サンにおけるジムナスティックと授乳は狩猟採集に基づく生活様式と関連づけて説明されてきた。これらの養育行動の地域や時代による変化,日常的文脈を検討するため,サンの中でも定住化や農耕牧畜民との交渉が進んでいるクンで調査を行った。先行研究では,サンのジムナスティックは乳児の運動発達を促進することを目的とする養育行動として論じられてきた。調査の結果,先行研究から示唆される予想に反してクンでも乳児に早くから頻繁にジムナスティックを行うことがわかった。これはジムナスティックが日常場面ではしばしば「あやし」として行われること,しかも人々がその機能を認識していることによると考えられる。一方,狩猟採集に基づく生活での傾向と同様,クンの授乳は頻繁で持続時間が短いことがわかった。日常場面の観察から,こうした授乳様式の成立には,母親が授乳の時間や場所を定めない,授乳中に乳児にあまり視線を向けない,吸啜の休止期間にジグリングをあまり行わない,吸啜が休止するとジムナスティックが行われる場合がある,といった特徴が寄与していることが示唆された。これらは日常場面の観察の有効性,母子間相互作用の文化的多様性,養育行動を成り立たせる文化的構造の分析の重要性を示す。
- 2002-04-20