人體健態永久齒牙脂肪ノ形態學的研究補遺
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概要
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健態永久齒牙組織ニ於ケル脂肪ノ形態學的研究ハ既ニ1925年中村氏ニヨリ詳細ナル報告アリシ以来, Weber, Willner, 赤松, 國分, 角田, 山田, 伊藤等ノ諸氏ニヨル業績ヲ見ルト雖モソノ後脂肪質染色法ノ進歩改良ハコレガ再檢討サルベキモノアリ。殊ニ最近川村, 矢崎氏ニヨル40%「アルコール」「ズダン」III溶液ニヨル新脂肪染色法ノ發表ハ脂肪ノ形態學的研究ニ顯著ナル成績ヲ擧ゲ, 本法ニヨリ各種臓器ノ脂肪所見ニ再檢討ヲ施サル、ニ至レリ。余ハ川村教授ノ慫慂ニ從ヒ齒牙脂肪ノ再檢討ニ著手シ專ラ健態永久齒牙組織ニ於ケル脂肪所見ヲ川村, 矢崎氏新法竝ニ在來ノ70%「アルコール」「ズダン」III溶液ニヨリ胎生期ヨリ最高82歳ニ至ル各年代ノ齒牙155例ニ就キ檢索セリ。今ソノ結果ヲ要約スレバ次ノ如シ。(1) 琺瑯質ニ於ケル脂肪浸潤ハ極メテ稀レナルモ新法ニ由リテノミ高年者ノ琺瑯叢及ビ琺瑯層板ニ僅カニ認メラル。(2) 象牙質ニ於テハ齒細管内<トームス>___-纖維ニ點線状トシテ出現シ, 若年者ノ齒牙ニ於テ脂肪出現少キモノニテハ齒髓組織ニ接近セル部分ニ齒髓腔壁ヨリ點線状ニ現ハレ, 高年者ノ齒牙ニテ脂肪浸潤ノ著明ナルモノニ於テハ<トームス>___-纖維ノ全長ニ亙リ美麗ナル線状ヲナシ出現ス。而シテ新法ニテ12歳, 舊法ニテ27歳以上ノ齒牙ニ出現シ, 年齡ノ増加ト共ニソノ出現頻度ノ上昇ヲ認ム。(3) 白堊質ニ於テハ脂肪浸潤ハ第2白堊質ノ白堊質小窩及ビ白堊質小體内ニ出現シ本組織ニ於ケル脂肪所見ハ單ニ年齡的ニ増量スルノミナラズ特ニ齒根膜ノ性状及ビ周圍支持組織ノ状態ニ影響セラル、所甚大ナリ。脂肪浸潤ハ第2白堊質ノ新層ニ少ク, 舊層ニ著シク認メラレ, 又白堊質小體自身ノ形態ノ差ニヨリテモ脂肪質ノ出現ヲ異ニスルヲ認ム。同一層内ニ於テモ亦ソノ内ニ含マル、白堊質小體ノ形態ニヨリ脂肪浸潤ノ状況ヲ異ニス。白堊質小體ニ於テハ概シテ圓形ノモノニ少ク, 紡錘形又ハ多角形ノモノニ著明ナリ。是等白堊質ノ新, 舊兩層ニ於ケル脂肪出現ノ差異及ビ白堊質小體ノ變化ト脂肪出現ノ差異ハ大體ニ於テ夫等ノモノ、退行變性ノ表徴ト一致スルモノニシテ從ツテ是等ノ脂肪所見ヲ綜合スル時ハ第2白堊質ノ複雑ナル構造モコレガ形成過程ヲソノ脂肪所見ヨリ窺ヒ知ルヲ得ベシ。(4) 齒髓組織ニ於ケル脂肪浸潤ハ最モ早ク造齒細胞原形質内ノ細胞核外側ニ現ハレ, 量ノ増加ト共ニ基底部原形質内ニモ浸潤シ終ニ<トームス>___-纖維ニ浸潤スルニ至ル。血管内被細胞, 齒髓細胞ニモ亦脂肪浸潤ヲ認ム。造齒細胞ニ於テハ新法ニテ12歳, 舊法ニテ14歳ノ齒牙ニ最モ早ク脂肪出現シ以後ハ年齡ノ累加ト共ニソノ出現頻度ヲ上昇シ30歳以上トナレバ常在性トナル。而シテコレヲ年齡的ニ總括スレバ年齡ノ累加ト共ニ出現頻度ノ上昇ヲ示シ, 齒牙個々ニ於テ見ル場合ハ齒牙ノ化灰完成期ノ早キ齒牙ニ於テ最モ早期ニ脂肪浸潤ノ生ズル事實ヲ確認セリ。(5) 齒根膜組織ニ於ケル脂肪浸潤ハ齒牙ノ他ノ組織ヨリ比較的遲レテ出現スルモノナリ。コレ本組織ガ特ニ齒牙周圍支持組織ト緊密ナル關係ニアリソノ生活力旺盛ニ且ツ榮養供給良好ナルニ因ルベシ。而レドモ造白堊細胞, 血管内被細胞等ニ於ケル脂肪浸潤ハ又年齡ト共ニ増量スルヲ認ム。(6) 各組織ニ浸潤スル脂肪ノ形態ハ新法, 舊法共ニ滴状ヲ呈スルモ新法ニテハ美麗ナル圓形ヲ呈スルコト多ク, 舊法ニテハ概シテ微細ナリ。色調ハ新法ニテハ總テ美麗ナル橙赤色ヲ呈シ, 舊法ニテハ赤褐色又ハ黄赤褐色ヲ呈シ, 新, 舊兩法ニヨル染色ノ差ハ新法遙カニ美麗鮮明ニシテ著シク檢索ニ便ナリ。而シテ是等ノ脂肪質ハ川村氏群屬反應ニ從ヒ主トシテ狹義ノ類脂肪ニ屬スルモノト認ム。之ヲ要スルニ健態永久齒牙組織ニ見ル脂肪浸潤ハーツニ齒牙各組織ノ生理的衰調ヲ示スモノニシテ明カニ一種ノ老性變化ト認メ得ベシ。尚ホ余ノ研究成績コ於テハ各組織ニ於ケル脂肪出現ガ中村氏ノ述ベタル所ヨリ早期ニ出現スルヲ確認セリ。斯ル場合ニ於テ殊ニ齒髓組織ニ於ケル所見ハソノ齒牙ヲ見ルニ總テ切齒及ビ第1大臼齒ノ如キ比較的早期ニ完成スル齒牙ニ先ヅ脂肪浸潤ノ出現スルコトヲ知リ得タリ。即チ斯ク形成完了シ脂肪浸潤ノ出現スル若年者ノ齒牙ハソノ年齡ニ於テハ若年ナルモ齒牙個體ヨリ見ル場合ハ既ニ一種ノ老性變化ノ發現ト認ムルヲ得ベク, 余ノ成績ハ齒牙ニ於ケル脂肪出現ガーツノ年齡的變化即チ老性變化ノ結果來ルモノナルコトヲ更ニ確認セルモノナリ。
- 九州歯科学会の論文
- 1940-11-25