歯牙発生過程の口腔領域における塩化メチル水銀-^<203>Hg の組織細胞内分布とその推移
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概要
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メチル水銀(MMC)の口腔歯科領域に及ぼす影響を知るために, ラットを材料とし, ^<203>Hg-MMC投与による組織細胞のオートラジオグラフィとradioactivityの測定による実験を行って次の結果を得た。実験1.成熟ラットに^<203>Hg-MMC (0.28μci/g)を胃ゾンデにて投与し, 各口腔領域組織におけるメチル水銀の分布を経時的(3時間, 1日, 3日, 5日, 8日, 12日)に観察した。口腔歯科領域内の各組織細胞は種々の程度にメチル水銀に暴露されうる。舌では粘膜上皮と舌筋および舌腺とくに漿液腺などの組織細胞内への^<203>Hg-MMCの取り込みが目立ち, 口腔周囲皮膚では表皮細胞内よりも毛組織内に^<203>Hg-MMCの沈着蓄積する所見を示した。耳下腺では腺細胞および導管上皮に強い取込みを示した。一方成熟ラットの歯牙組織には^<203>Hg-MMCの沈着は非常に弱かった。経時的変化は組織により多少の差があるが, 概ね8日以後は^<203>Hg-MMCの沈着は減少した。これらの観察から上皮剥離や唾液分泌によりメチル水銀排泄の機構の一部が示唆されていることは興味がある。実験2, 第1の実験と比較の意味で^<203>Hg-MMC (0.56μci/g)を成熟ラットに皮下注射し, 舌筋, 硬口蓋, 歯牙組織, 皮膚, 耳下腺, 肝におけるradioactivityが測定された。口腔領域組織では耳下腺の活性が最も高く, 歯牙が最低で, 他の組織はそれぞれ, その中間の値を示し, 活性の経時的変化もオートラジオグラフィによる形態学的所見と矛盾しなかった。実験3, 歯牙発生時におけるメチル水銀の影響をみるため, 妊娠ラットに^<203>Hg-MMC (0.28μci/g各2回)を皮下注射し, その胎児の胎生15日, 生下時, 生後4日, 同7日の新生ラットの歯牙発生過程における組織細胞への^<203>Hg-MMCの取込みを経時的に観察した。成熟ラットの歯牙組織への^<203>Hg-MMCの弱い沈着に比べ, 歯牙発生過程の組織細胞ではかなり容易にメチル水銀の取込みを行っている。主要所見として(1)歯堤期および歯蕾期では外胚葉性由来の上皮細胞に一般に強い沈着があり, エナメル器形成とともに内エナメル細胞に強い沈着をみた。(2)中胚葉性の組織では歯乳頭形成とともにその部の間葉系組織細胞にメチル水銀の強い沈着が示され, また象牙芽細胞にもかなりの取り込みが示された。歯牙発生過程の各期を通じてこれらのメチル水銀沈着の所見は人胎児性水俣病の歯牙発育異常の発生病理に一つの示唆を与えた。
- 1974-11-30