塩化メチル水銀によるネズミの味蕾障害についての光学顕微鏡的ならびに電子顕微鏡的研究
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概要
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水俣病患者の中には味覚障害を訴えるものが多数(約80%)あることが野坂らにより指摘されている。しかし, その病理発生に関しては中枢性であるかあるいは末梢性であるかは, なお明らかにされていない。そこで著者は末梢味覚受容器におけるメチル水銀の障害について検討を加えるため, ネズミを使用し, その味蕾におけるメチル水銀の影響を実験的に光学および電子顕微鏡的形態学的に観察した。実験動物は100g程度のwistar系白ネズミを使用し, 塩化メチル水銀3mg/日をマーガリンに混じて連日ないし間歇的に経口投与した。ネズミにおける水俣病の三主微として武内らに決められた後肢交叉, 異常運動, 失調を臨床症状の目安として, それら動物について光顕的および電顕的に検索した。実験成績 : メチル水銀は味覚受容器の味蕾に障害をおよぼし, 構成細胞の変性崩壊を招来し, その数は著しく減少する。光学顕微鏡的には, 投与の比較的早期から味蕾細胞は核のピクノーゼ, 核崩壊, 核融解などの変化がみられ, 障害の著しい細胞は消失する。電顕的には, 先ず細胞質の電子密度の変化からI型細胞(明細胞)とII型細胞(暗細胞)の区別が困難となり, 比較的早期に糸粒体基質の虫喰状透明化が現われ, 次いで内櫛が消失し, リボゾームの消失などがあって, 最後に糸粒体全体が空胞化したのち崩壊する。小胞体やGolgi装置にも変化が現われ, 内腔の拡張膨化を来たすため, 細胞質全体がこれらの空胞で占められるに至る。他方, 核は電子密度の増加と変形核質の凝集など光顕所見に合致した変化を示し, かくして細胞全体の著明な変性像の後崩壊する。神経終末においてはリボゾームの消失, 基質の膨化などがみられるが糸粒体の変化は著明に軽く, 味蕾細胞と同様な空胞性変化が軽度にみられる。進行期には神経細管も認め難くなる。味蕾周囲の口腔扁平上皮には著変がないが, 後になって糸粒体の空胞化がみられるが, 細胞障害像は味蕾細胞に比べると著しく軽い。今回の実験からメチル水銀は味覚受容器としての味蕾の細胞に重大な障害を与えうることが明らかとなった。このことはヒトの水俣病における味覚障害の病理発生についての重要な知見であると共に, その他の感覚障害についても今後の研究に重要な示唆を与えるものと考える。
- 1974-11-30