ロマネスク彫刻における三面像の意味 : ウンブリア州、ラツィオ州の例に関する一考察
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概要
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1)序 イタリアのロマネスク聖堂のファサードには、多くの場合、ポータルの側柱、アーチヴォルト、アーキトレーヴに沿って、動物や怪物などを巻き込む蔓植物の彫刻が施されている。蔓植物は狼やライオンのような動物の口から、あるいは壷や水盤から生えだしていることもあり、背を曲げ重さに耐える姿のテラモン=アトラスによってその根元を支えられていることもある。また数は少ないが、正面を向いた顔の左右に横向きの顔が接合されている三面像の左右両脇の口から蔓植物が生えだしている例もある。ウンブリア州スポレートの大聖堂の場合には、中央ポータルの左(ファサードに背を向けて)側柱に沿って這う蔓植物が三面像から生えており(図1)、また同市市立美術館所蔵のリュネッタにも、蔓植物を吐き出す同様の三面像が表されている(図2)。ラツィオ州のトゥスカーニア(トスカネッラ)の大聖堂サン・ピエトロの場合には西側正面(1911年以前制作)上部の薔薇窓の左右に二連窓があるが、そのうちの左側のものの周囲に這っている蔓植物が三面像の両脇の口から生え出し再び上方で出会い、もう一つの三面像の口の中に飲み込まれる形で彫刻されている(図3)。同州のチヴィタ・カステッラーナの大聖堂のポータル(12世紀)のアーチヴォルト下側面の中央にも三面像が彫られている(図4)。トゥスカーニアの二つの三面像のうち、二連窓の下側にあるものは蛇を手にした半身像で表され、上部のものは角を生やした頭部だけが描かれている。両方の像は髭を生やし髪を逆立て、中央の面は舌を外に突き出しており、蛇や角、逆立つ頭髪などが中世盛期頃には一般的であった悪魔のイコノグラフィーと一致するため、悪魔の面であると解釈されている。しかしこれ以外の三面像については主に様式面から分析されているだけで、意味的解釈は特になされてきていない果たしてこれらの三面像はすべてが悪魔的なものを表しているのだろうか。またその源泉はどこに求められるのであろうか。本稿は、ウンブリア州とラツィオ州のロマネスク彫刻に現れたそれらの三面像の意味を探ることを目的としている。ロマネスク彫刻のポータル装飾に使われているこれらの例は他に事例のない特殊なものであるが、他の時代の三面像や一つの体に三つの頭を持つ三頭像とどのような関連を持つのであろうか。中世盛期、ルネサンス期には「賢明」や「時」に関連する像として頻繁に登場するこれに類似する三面像、三頭像などとも比較しながら、ラツィオ、ウンブリア地方に1100年代の末から1200年代初頭にかけて現れたロマネスク期の三面像の意味を考察したい。
- 1992-10-20
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