シエナのベルナルディーノの説教にみる「自然に反する罪」
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概要
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キリスト教の身体的な事柄に関する教えは、中世においては一般的に私な告解の場において取り扱われるべきものであった。保守的な聖職者は説教師に対して、性的な罪に関して言及することを避けるように注意している。しかしフランチェスコ会の説教師シエナのベルナルディーノ San Bernardino Albizzeschi da Siena (1380-1444)は、身体的な面に関しても公の説教の場での司牧を行なった。時代を代表する説教師であったベルナルディーノは、あえてそういった問題に踏み込んで説教を行なうことを選んだのである。欧米においては、史料に恵まれていることもあって、ベルナルディーノの説教は多くの研究者によって様々な面からアプローチがなされてきた。そのなかでベルナルディーノの結婚生活に関する説教を取り上げた研究は、家族史・女性史研究の進展とともに特に1970年代半ばから行なわれるようになった。ポリチェッリは78年の論文において、ベルナルディーノは中性的な偏見から完全に自出ではないが、女性の権利を擁護した革新的な人物と述べている。これに対してマリは、ベルナルディーノは中性的なミソジニストで、ベルナルディーノの説教では女性は社会の悪の根源であり男性の罪の原因とされていると主張している。ベルナルディーノの説教に対するこうしたアプローチには、フェミニスト神学からの影響が考えられる。その後もベルナルディーノの結婚生活に関する説教についての研究がなされ、モルマンドは、「シエナのベルナルディーノ、女性の《偉大な擁護者》か、それとも《情け容赦ない裏切り者》か」と題する論文において、ベルナルディーノ自身は自分を女性の擁護者と考えていたであろうが、彼には多くの矛盾やあいまいさがあるとして中間的な立場を取っている。以上の研究は主に結婚生活の精神的な面を扱ったものであるが、彼の夫婦間の性的行為についての説教を論じた研究は多くはなく、考察の対象も俗人向けの筆録説教にほぼ限定されている。一方、ベルナルディーノが行なった男性間の性的関係についての説教も近年研究され始めているが、彼の性的問題全体についての説教は未だ十分明らかにされていない。本稿では身体的な面に対するベルナルディーノの説教師としての独自性の解明を試みる。婚姻内と婚姻外の双方の身体的な側面、つまり夫婦間の関係と男性間の関係を視野に入れ、その共通点と相違点とを明らかにすることで身体的な問題全体に対する彼の理論的枠組みを提示したい。その際、今まで論じられることのなかった夫婦間の性的問題を扱った説教師向けの範例説教にも目を向けて、説教師としての彼の戦略をより明確に浮かび上がらせたい。
- 2003-10-25