建造環境としての街路照明と近代都市社会のダイナミズム
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概要
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本稿は,地理学における建造環境,言説,場所の議論に基づいて,流動する社会の空間と時間のなかで建造物がもつ位置と役割を地理学的に書きとめる試みである。それにはまず,人間を取り巻き人間に経験される環境として,建造物を捉え直すことが重要になる。中心事例は1920年代の大阪市における街路照明の設置活動である。また当時の科学雑誌や新聞記事の分析に際しては,街路照明にもたらされた言説と場所の作用を見定める。こうして街路照明に係わる空間と時間を復元した結果,以下のような近代都市社会のダイナミズムが再現された。すなわち,街路照明は,1920年代以降照明工学や都市行政の分野で研究が始められ,当時の都市社会が直面した交通問題,関東大震災後の治安悪化,深刻な不況の経験を反映した普遍的な価値を獲得していった。しかし,他方でそれは,実際に都市のなかに設置される過程で場所の多様性を備えていった。大阪市では,行政機構,住民社会,近代天皇制との関係から街路照明の価値が変質し,大阪市という場所の独自性が街路照明に付与された。以上のことから,街路照明が1920年代の都市の経験と絶妙な調和を見せていたことが明らかになった。
- 地理科学学会の論文
- 1999-10-28
著者
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