レオナルド・ダ・ヴィンチの天体研究 : 太陽の賞賛をめぐって
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概要
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レオナルド・ダ・ヴィンチは天界のできごとに強く心を惹かれていたという。伝記作者ヴァザーリは『列伝』の中で、さまざまな事柄に精通していたレオナルドが天体現象にも関心を示し、「天体の運動や月の運行、太陽の動きをたえず観察していた」と伝えている。天体観測者という新たなレオナルド像を示唆するヴァザーリの記述はにわかに信じがたいとしても、レオナルドが天空の星々に好奇の目を向けていたのは事実のようである。彼の遺した手稿から知られる天体研究の軌跡は、それが、他のいくつかの問題と同様に何回かの中断をはさみながら生涯を通じて繰返し立ち現れる探究テーマであったことを示している。ところでレオナルドが天体研究に関して書きとめた文章のひとつに、多くの研究者の目を引きつけた断片があった。レオナルド自身の手で「太陽の賞賛(lalde del sole)」という表題を付せられたその断片は、意味深い題名のために神秘的な思想の象徴とみなされ、数々の解釈と大胆な推測をうみだしてきた。しかしそうした過去の研究には「太陽の賞賛」をレオナルドの他の断片から切り離して取り扱い、その意味をもっぱら当時の知的環境との関係で解明しようとするきらいがあるように思われる。そうした傾向はひとつには各紙葉の執筆年代が確定されず、レオナルドの思索を発展史的に捉えることができなかったために生じたものであった。だが近年のレオナルド研究は文献学の分野で飛躍的に発展した。その結果、現在では各断片を執筆年代順に再構成し、彼の思索の変遷を辿ることも不可能ではなくなっている。本論ではそうした研究成果をふまえつつ、「太陽の賞賛」の意味をレオナルド自身の思索の展開のうちに探ろうと試みた。というものレオナルドがそこに記しているのは彼の抱いていた宇宙像の一部にすぎず、他の断片にひそむ彼の思想と照らし合わせることによってはじめて「太陽の賞賛」の意図を探ることが可能になるからである。そこで本論ではまずレオナルドの天体研究の発展過程を解き明かし、そこに「太陽の賞賛」の新たな意味を求めることにしたい。
- イタリア学会の論文
- 1993-10-20