ガリアーニ『貨幣論』の基本構造
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概要
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『貨幣論』Della moneta(初版1751年)の著者ガリアーニは、経済学史上限界効用価値説(主観価値説)の先駆者として知られる。それは、ガリアーニが通説的にはアダム・スミスとの関連で扱われるいわゆる「価値のパラドックス」の解決にあたって、効用と稀少性の概念にもとづいて、学説史上最も早く整合的で説得力ある説明を行なったことによる。しかも従来の研究におけるガリアーニ評価は、『貨幣論』第1編第2章「すべての事物の価値がうまれる原理の宣言」における「価値は、ある人の概念上の1物の所有と他物の所有との比率の1つの観念である。」及び価値は「効用utilitaと稀少性raritaの名で表わされる2つの根拠からなる。」という定義にはじまる論理展開に集中的になされている。確かにこの部分の内容は本書の中で際立った意義をもっており、イタリアの先行者の業積に比べて聳え立つ成果を示している。ところで、ガリアーニは第1編「金属について」の序文で、「貨幣のすなわち文明国民が他のあらゆる物の等価物として手に入れたり、与えたりするのを常とする金属の本性と性質を書きしるすことを決意した」後で、「書くことに駆り立てたのは、公共の福祉への愛」であると本書執筆の動機を明らかにしている。また第2編「貨幣の本質について」の序文でも、彼は「自然のきわめて不幸な状態を黄金の世紀」と名づけ、「金や銀について、きわめて激しい軽蔑の刻印を押す人々」である賢人に対して、「大衆の観念」に信頼を寄せながら、貨幣は「偉大できわめて有用な発明」であり、「市民社会秩序の完成」であると反論している。さらに本書の結論では、「ナポリとシチリアの王国が、自己の主権者の現存によって再び立ち上がり、気力をとりもどしているのに、イタリアの残りの部分が、目に見えて日に日に気力を失ない、衰退していることを悲しみ憂える」と述懐している。これらの主張から、『貨幣論』は貨幣貶造を批判し、ナポリ王室の財政、国庫充実をめざす方策を論じたものというより、広くイタリア社会における富裕の普遍化を意図した啓蒙の書であることが暗示される。従って、彼の価値論は、当時における貨幣価値の混乱を収束し、経済的沈滞からの脱却をはかり、富裕な社会を実現するための中心的手段となるべきものであった。本稿は、ガリアーニ価値論の基本的な論理構造を明らかにしながら、その枠内に止まることなく、『貨幣論』の重要な論点である公共の福祉の問題を検討し、その学説史的意義を確認しようとするものである。
- イタリア学会の論文
- 1987-10-30