一一〜一二世紀の南イタリアの司法官
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概要
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一一世紀初め、ほんの一握りの名もなきノルマンディの騎士たちが巡礼の途中にたまたま通りかかったイタリア南部で、現地の人の懇請をうけて力を貸し見事な勝利を収めた。これがイタリアにおけるノルマン人の活動の発端である。かつて、ギボンはその大著『ローマ帝国衰亡史』において、「ノルマン人がナポリとシチリアに王国を確立したことは、その発端において大変ロマンティックであり、その結果においてイタリアと東方帝国の双方にとって大変重要である」といったが、夢物語のようなエピソードで始まるこのノルマン人の活動は、南イタリアの政治上、大きな変化をもたらした。ノルマン人が到来するまで南イタリアには諸権力が分立し、モザイクのようにイスラム・ビザンツ・ラテン勢力が入り乱れていた。それが、ノルマン人によって一つのシチリア王国にまとめられ、以後この地方が一大勢力となるもとが築かれたのである。ところで、このように政治上の地図が大きく塗りかわる中で、社会はどのような状況にあったのであろうか。M・アマーリ以来現在にいたるまで、ノルマン支配のインパクトによって社会が急激に大きな変化を遂げたとする考え方は、一一-一二世紀の南イタリアと考える上で有力な意見となっている。これに対して、最近L・R・メナジェらが否定的な見解を明らかにしている。そこで、本稿においてはノルマン支配のあり万を示す一指標として司法官をとりあげ、その検討から、この問題に一つの解答を出してみたい。司法官は財務官と並んで統治手段の重要な柱であり、ローマ以来「法」による支配の伝統が生きているイタリアではその法の担い手としての司法官を考えることは当時の状況を知る手がかりになると考えられる。従って、司法官を取り上げることは有益であろう。しかし、一一-一二世紀、とりわけノルマン時代の司法官の研究は、史料上の制約もあって、あまり多いとはいえない。E・カスパルやF・シャランドン等の概説書の中でいくらか触れられているほかは、ごく少数に限られる。
- イタリア学会の論文
- 1983-03-10