フィレンツェ型とローマ型のイタリア語 : 母音間の単子音[∫]の音韻解釈について
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概要
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フィレンツェで話されるイタリア語とローマで話されるイタリア語との間には、ある共通の音声現象が認められる。つまり、どちらのイタリア語の地方変種においても、母音間という弱位置で、単一の硬口蓋子音[∫]が[t∫]という音と同等の価値を持って現われてくるのである。例をひとつあげてみよう。≪平和≫を意味する単語が、個人により、また文体により、['pat∫e]と発音されたり['pa∫e]と発音されたりする現象がそれである。ここでは音[t∫]と[∫]は自由な変異体 variante libera の関係にある。ところがこの対は、休止後の語頭とか子音の後という強位置では、ふたつの異なった音素の実現とみなされる。例えば ciocco/'c〓kko/≪薪≫-sciocco/'s〓kko/≪ばか≫ とか concio/'kcnco/≪なめした≫-conscio/'k〓nso/≪意識した≫ のように。そこでこれから、硬口蓋子音の摩擦音化による問題の[t∫]/[∫]の変異が、フィレンツェ型とローマ型のイタリア語のそれぞれの音韻体系の中で、いかなる解釈を受け得るかを見ていくことにする。
- イタリア学会の論文
- 1981-03-31