ピランデルロのクローチェ批評 : 『ダンテの詩』をめぐって
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概要
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イタリアが生んだ今世紀最大の劇作家ルイージ・ピランデルロ(Luigi Pirandello, 1867〜1936)は、批評家としても活躍した。一九〇八年、彼はL'umorismo, Aute e scienzaなる二つの論文を発表したが、これがクローチェ(Benedetto Croce, 1866〜1952)との論戦の火蓋を切ることになった。即ち Arte e scienzaに於て、ピランデルロはクローチェの『美学』が「抽象的、不完全、初歩的にして知性なき知的美学」と呼び、「クローチェは論理を論点の先取(petizione di principio)、詭弁、矛盾で損い、混乱を招来さすのに成功した」と酷評した。またL'umorismoに於ては、ユーモアが言い表し得ない心理的状態であり、偽りの観念であり、審美的範疇では決してないとするクローチェの見解を否定し、ピランデルロはユーモアの審美的独立性を当然の権利として要求した。これに対してクローチェは、一九〇九年、ピランデルロのL'umorismoを批評した(La Critica, VII)が、Arte e sienzaはクローチェに知られなかったようである。しかしピランデルロを卑下した書き方はSaggioの中に散見される。一九二〇年頃、ピランデルロはL'umorismoを再版したが、茲に於ては愈々anticroce的色彩を強めた。即ちクローチェの所説は「直観=表現」とする方程式と、芸術と非芸術とを区別することや芸術的直観を一般的直観と区別することの不可能性を示しただけのものだと断言した。一九二一年に至って、ピランデルロにとりクローチェ攻撃の好機が訪れた感がある。即ち一九二〇年クローチェは、その観念論的美学に基き『ダンテの詩』(La Poesia di Dante)を公刊するとピランデルロは早速、一九二一年九月十四日L'idea nazionale紙上でこれを取り上げたのである。そして今度は有利な立場から、苛酷且つ皮肉を混えた調子で、徹頭徹尾激しい論評を加えた。この書評はダンテの詩に関するクローチェの所論に対してのみでなく、彼の観念論美学そのものに対する鋭い批判とも見做し得るものである。以下このピランデルロのクローチェ著 『ダンテの詩』の書評を通観し、その論点や意義を若干考察したいと思う。
- 1968-01-20