ペトラルカとフランスのソネット
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概要
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ペトラルカがフランス詩に与えた影響は、むろんフランス自体にそれを受け入れるに好都合な地盤、すなわち思想及び文学上の発展があったからであるが、彼が当時のユマニスムや詩の領域において、ダンテよりもはるかに大きく、かつ顕著な貢献を示したことを、まずはじめに指摘しておこう。ホイジンガーの『中世の秋』によれば、ペトラルカはすでに十四世紀末期から「ジャン・ドゥ・モントルイユJean de Montreuilやその一派によって輝かしい先導者と仰がれており、<若き>エラスムであり、道徳と人生に関する著作をものした多才な著述家」として名声を博していた。ユマニスムは何よりもまず、道徳的思想の運動であろう。したがって彼は、少くとも当初は文学者としてではなく、愛の領域でも心理的、道徳的メッセージをもたらした人として賞讃されていたのである。このことは、フランス詩における影響を見る場合にも看過できない事実である。なぜなら、彼の『カンツォニエーレ』は、まさに彼の精神生活全般の心理的探求がその素材になっており、単に地上の情熱の体験の讃歌であるばかりでなく、それ以上に人間の宿命に関する深い瞑想の記録でもあるからだ。いわば人間と神なるものとの相剋を証言するものと言えよう。
- 1966-01-20