半数体酵母Saccharomyces rouxiiの生活史
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概要
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典型的な半数体酵母である味噌・醤油醸造酵母saccharomyces rouxiiの生活史を, その栄養変異株を用いて明らかにした(Fig. 3).従来, 本酵母は栄養増殖期〔Fig. 3中の(1)以下同様〕を半数体で過ごすのを特徴とし, まれに接合(3)してもただちに接合体型子嚢を形成して半数体栄養細胞に復帰し, その倍数体期(2)も接合体のときのみという半数体酵母とされている.1960年, WickerhamとBurtonがこの酵母にheterothallismを発見して以後, 著者等は本酵母の倍数体化を試み、特にその接合および胞子形成にはその分離源と同様な醤油麹抽出液(麹の4倍量の水で60℃, 6時間抽出後, 除蛋白したもの)の10倍希釈液に食塩5%およびぶどう糖5%を含む寒天培地(接合培地)および食塩5%を含む寒天培地(胞子形成培地)が有効であることを認めた.また, 倍数体の育成は接合体の単独分離および嫌気条件下における培養によって容易になしうることを明かにした.そこで, 標準株NRRL-2547およびNRRL-2548のかけ合わせによってえた接合型ヘテロの倍数体から調製したfree-spore suspensionをN-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidineで処理することによってえた栄養変異株を用いて実験を行なった.本報では供試株およびそのsegregantsの接合型の分離比が, およそ1対1であることから接合型標準株として用いたNRRL-2547およびNRRL-2548の接合型をそれぞれαおよびαと今後表示することを提案した(Table. 1).また, 一部の栄養変異株式会社についてはsingle mutantであることを明らかにして用いた.接合培地上での栄養変異株間のmass-matingで形成された接合体から単独分離培養によって生じた出芽細胞を分離してえたcloneを調べることにより, 接合体より栄養要求性半数体細胞が出芽することを明らかにした(Table 2).この傾向が比較的多く認められることから本酵母ではかなり長く安定なheterocaryon期(4)が存在することが示唆された.また, 同様にして, 非栄養要求性の大型細胞が接合体より出芽されるのが認められた(Fig. 1,Table 3).この大型細胞はその大きさ, 形, 乾燥重量およびdeoxyriboseの含量(Table 4), ならびにこれらによって形成された子嚢胞子の解析によって栄養要求生に関するrecombinantsがえられたことから(Table 5)接合型および栄養要求性に関してheterozygousな倍数体であることが証明された.すなわち, 接合体の単独分離およびその嫌気培養によって生じた倍数体(5)の栄養増殖期とこれに続く非接合体型子嚢形成(6)が認められた.これらの遺伝解析についてはclone形成率が低いために(7〜40%)いずれもrandom spore analysisの結果としてあらわした.さらに, ある接合型ヘテロの倍数体の胞子形成試験中に, たまたま, 接合体型多胞子子嚢および接合管を有する3〜4胞子子嚢が多数観察された.これらの栄養細胞からの無差別な単細胞分離によって接合型ホモの倍数体(a/aおよびα/α)が容易にえられた(Table 6).恐らくこれらはmitotic recombinationによって生じたものと思われる.これら接合型ホモの倍数体と半数体栄養変異株間.あるいはこれら倍数体間のかけ合わせを倍数体育成と同じ方法で行なうことによってダ円型の大型細部(7,8)がえられた.その倍数性測定の結果(Table 7), これらがそれぞれtriploid(7)およびtetraploid細胞(8)であることが明らかとなった.これらpolyploidの細胞の育成については, 接合体形成後ただちに嫌気培養を行なうことが倍数体育成の場合と同様に重要であった.このように本酵母におけるheterocaryon期の存在, 倍数体の育成および遺伝的型質の組換型の出現(Table 5)の結果などからその生活史が明らかになるとともに, 本酵母で初めて接合型ホモの倍数体がえられたことをおよび3倍体、4倍体の育成が容易になんら栄養要求性等の型質を用いずともなしえたことは興味深い.酵母は一般にその生活史から, 半数体酵母, 倍数体酵母と大きくわけられているが, 本酵母の生活史の検討からほとんどその両者に差がないであろうことが推定されるとともに, 本酵母の高次買収体等への育種改良の可能性が強く示唆された.
- 公益社団法人日本生物工学会の論文
- 1973-06-25