木材腐朽菌ヒイロタケ菌による芳香族化合物からの代謝生産物(第I報) : 安息香酸の酸化と安息香酸培養液から得られたアセトアルデハイド
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概要
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リグニン分解菌ヒイロタケ菌は振盪培養法によつて, 均一微細な菌粒を形成する。所定の培養液中で3日間26℃で培養して得た菌粒を, 燐酸緩衝液により飢餓培養し, その菌粒を用いて安息香酸に対する酸化現象を, ワールブルグ検圧計で酸素吸収により測定した。Fig.1に示す如く, 誘導時間を経て適応的な酸素吸収の曲線を示した。別に, 飢餓培養の際に少量の安息香酸を入れて得た菌粒は, Fig.2に示す如く安息香酸を誘導時間なしに直ちに酸化する。酸素吸収の増加は安息香酸による呼吸促進とも考えられるが, 一定時間後, 酸素吸収曲線が自己呼吸と平行になることと, 酸素吸収の量が安息香酸1モル分子に対し約19/4モル分子になるので, 安息香酸が酸化開裂していると推定される。次に安息香酸が菌により酸化すると考え, 代謝分解生産物として最も可能性のあるカルボニル化合物を, 2,4-ヂニトロフェニルヒドラゾンとして捕えようと試みた。その結果は, カラムクロマトグラフィにより黄橙色のアセトアルデハイド・2,4-ヂニトロフェニルヒドラゾンの結晶を分離し, 元素分析・混融・ペーパークロマトグラフィー・赤外線スペクトルにより同定することが出来た。なお念のため, 所定の培養液から炭素源を除いた培地についても同様の操作を試みたところ, 少量であるがアセトアルデハイド・2,4-ヂニトロフェニルヒドラゾンを得た。このことはアセトアルデハイドが菌のオートリーゼにより生ずる可能性を示し, アセトアルデハイドが必ずしも菌による安息香酸酸化分解成績体とはいい得ない。しかしその量は, 安息香酸培養液の場合は炭素源無添加の場合の5倍量を得たので, 少なくとも培養液に安息香酸の存在することによりアセトアルデハイドがより多く蓄積したといえる。安息香酸培養液中の安息香酸の一定時間振盪培養後の残量は, 培養液を硫酸酸性にし, 硫安で飽和して, エーテルで徹底的に抽出したところ, 最初に加えた安息香酸量の約50%を回収した。なお数多くの実験を繰返している中に, 一例において, 安息香酸培養液に著しい苦扁桃の香がし, 容易に赤色のベンズアルデハイド・2,4-ヂニトロフェニルヒドラゾンの沈澱を得, 混融とペーパークロマトグラフィーにより同定することが出来た。しかしその後は再びベンズアルデハイドは得ることが出来なかつた。
- 日本森林学会の論文
- 1956-06-25
著者
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