ジャカルタの居住環境改善事業における住民参加 : カンポン改良計画をめぐって
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概要
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第二次世界大戦以降, 第三世界一般に, 潜在的な過剰人口を抱えた農村部からの人口流入が起こり, 都市, とりわけ首都を中心とする大都市人口の急速な増加がみられた. その結果, 都市人口の急増に対して, 公共サービスや住宅の供給が追いつかず, 劣悪な居住環境の人口密集地区や不法居住地区が形成され, 急激に拡大していった. この様な不良居住地区を都市の病巣としてとらえ, これを強制的に排除し再開発するという従来のアプローチにかわって, 1970年代から, 世界的にセルフヘルプ論に基づくアプロ一チが採用されるようになった. ことにインドネシアの首都ジャカルタにおけるカンポン改良計画は, この方式を採用したアジアの都市における成功例として, 国際的な注目を集めるに至った. セルフヘルプ開発施策の手法論では, 積極的な住民の参加を促し, 組織化することが必要とされている. インドネシアでは従来からの社会にあったとされる集落の習慣などで形成された住民グループや, 日本の占領期にもたらされた町内会・隣組組織の効率的な運用で住民の組織化がなされている. これらが有効に働き, 物理的環境改善, 公的サービス給付のための活動に住民を参加させることができたのである。また, インドネシアの社会で国家が地方政治に対して指導する「相互扶助」や「対話と同意」といった社会安定のための原則も, 計画推進の際に住民組織を活動させるのに好条件となった. これらの性質は計画が有効に運営され, 結果を生み出した大きな原因ではあるが, 同時に施策がトップダウンで住民組織を動かすような体制を作ることを助長したと考えられる. カンポン改良計画をはじめとする居住地改良事業は, こうした住民組織化や動員の過程で, 社会空間を再編成しているといえる. カンポン改良計画の特徴である住民参加は開発戦略におけるセルフヘルプ論での認識を先取りした結果になったが, その形式には住民組織化, 動員の過程が見られる.
- 1994-09-30