最上地域における衣服工業の展開と農家の就業形態
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概要
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本稿では農村地域の工業化を主導してきた業種の一つである衣服工業を取り上げ,最上地域を事例としてつぎの課題に取り組んだ.第1に,その展開,取引構造,生産構造について考察し,アパレル卸商の下請利用を内包した企業内地域間分業の形成・発展にとって,当該地域の衣服工業がどのような機能を有しているのか,第2に,労働力利用の側面として農家主婦労働力に注目し,その就業形態と農業・農家とのかかわりから多就業形態の実態に迫るとともに,衣服工業,農家の両者にとってのその意義と機能を明らかにした. 最上地域における衣服工業は,1970年代以降,アパレル卸商の「自家工場」進出とそれにともなう地元企業の設立によって拡大してきた.地元企業は,その多くが進出工場(企業)の下請として,低工賃で利用されている.そのため,地元企業は企業階層の底辺にあって,より低賃金労働力にたよらざるをえない状況にある.地元企業の存立基盤としては,低賃金利用のほかにスポット受注やミシンの貸借関係があるが,これらの関係もアパレル卸商の戦略に強く規定されており,現状の経済的な諸関係を維持・補強する機能しか持ちえていない.当該地域の衣服工業は,企業内地域間分業のもとで,相対的に独自の機能をもち,アパレル卸商の蓄積構造の一分肢として機能している. こうした衣服工場(企業)に低賃金労働力として取り込まれたのが,農家女子労働力である.農家女子は,農外に就業すると同時に,農業にも従事するという二重就業形態をとっている.女子労働力は,兼業であるがゆえに低賃金で,しかも柔軟な利用が可能であるという点で,衣服工場(企業)の要求を満たすものであった.このような女子労働力は,一方で低賃金労働力として経営基盤の脆弱な衣服工場(企業)を支え,他方でその農外収入をもって農家家計を支えるという,2つの重要な役割を果たしている.
- 経済地理学会の論文
- 1991-03-31
著者
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