ホルサイス・酒井共著, 『シーボルトと日本の動物誌』
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概要
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今度出版されたこのすばらしい本は,シーボルトの古典「Fauna Japonica」5巻のいずれかを利用する機会のあるすべての動物学者にとって,興味深いものである。シーボルトに関する既にあった情報に加えて,著者達は,ヨーロッパと日本の様々な教育の古い記録の未発表の資料に接する機会を持ったのである。歴史的,伝記的事実の他に,「Fauna Japonica」各巻の色々な分冊の出版の日付に関する有用なデータをすべて含んでいる。甲殻類学者には,この本は,デ・ハーンによる原典(1833〜1850)と共に,甲殻類の原典の姉妹編又は補遺として,特に観迎されるであろう。甲殻類分類学の二人の権威によって,デ・ハーンの多くの新属,新種のそれを含んで,すべての学名が改訂され,今日まで提出されてきた。さらに,約140年後,日本の有名な画家川原慶賀によって,シーボルトとビユルゲルの為に準備され,もともと「Fauna Japonica」のためのさし絵として描かれた甲殻類と剣尾類の得も言われぬほどの精巧な絵を再生することも今では可能になった。初めて,ヨーロッパ人が日本の海岸に着いてから約一世紀後,日本は諸外国との接触を一切断つことを決めた。ただし,厳しい監視の下で,オランダだけはその小さな貿易地を残すことを許された。平戸に1609年に設立されたこの商館は,1641年長崎港の人工島出島に移された。遠い江戸(今の東京)幕府への定期訪問の間だけ,商館のオランダ人は国内を見ることができた。しかし,この時代でさえ,日本の医者は西欧医学を学ぶことに熱心で,諸科学,特に植物学に興味を持つものが多かった。このようにして,出島の医者は日本人と何らかの職業上の接触を持つことができ,時々,植物を集めることも許された。オランダの権威は,従って彼等の奉仕に対し,自然科学に幅広い興味をもつ医者を可能な限り,ひきつけようと努めた。1820年はライデン自然科学博物館が設立された年であったが,これに先立って,こういった医者二人が,二人のヨーロッパ人,即ち,1690年から1692年まで日本に居たE.Kaempferと1775年から1776年まで勤務していたC.P.Thunbergの日本の動物相の知識にかなりの貢献をしたのである。ケンペルとツンベリーに関する生物学上の情報と,彼等の各々の貢献の評価は第一章に書かれている。しかし,最も著しい貢献は,最初の訪日が6年間に及んだ(1823〜1829)Ph.F.Von Sieboldと彼の助手であり後継者であるH.Burgerによって行なわれた。ビュルゲルは医者ではなかったが科学の養成を受けており,優れた収集家になった人である。シーボルトとビュルゲルに関する生物学上の記事は,シーボルトと親交のあった日本の生物学老たちに関する記事とともに,第2章に記載されている。そして,日本の動物学史への彼等の貢献の評価は,第3章に書かれている。次の2章の内容は,「Fauna Japonica」に捧げられたものであるが,この評論の第一パラグラフにすでに述べた。第5章(シーボルトの「Fauna Japonica」における甲殻類の学名の改訂)では,第1部(pp.80〜98)と第2部(pp.271〜298)の間に,いくつかの食い違いがある。例えば,p.57 Ocypoda(Helice) tridens, De Haan-p.280のHelice tridens tridens De Haanがp.85では省かれている。p.83亜属Othonia, Bell-P.284のPitho Bellがp.88では省略されている。p.31亜属Philyta-p.275のPhilyra Leachは"Philyra"と読めるがp.81から省略されている。ついでに言うと,第2部には第1部以上に脚註がある。(つまり,p.273〜274には属,Galene, Curtonotus, Dotoの脚註があるが,p.81にはない。)最後の章は,画家川原慶賀と海の生物,主に魚類や甲殻類の原画の歴史を扱っているが,これらの絵はビュルゲルによって1831年ライデンに送られた。甲殻類と剣尾類の絵はカラーで上手に再現されており,それらが代表している種の説明はp.106〜132とp.304〜323(日本語)に記されている。ビュルゲルは,この絵のうち25に説明をつけ,日本語の俗名の音声的転写が後に続く暫定的な属名をつねにつけた。川原慶賀は二種類の文字の組み合わせ,つまり,仮名と漢字で日本語名をつけ加えた。原画にいくつかの面白い註が,日本のカニの分野での第一人者,酒井博士によって加えられた。そして,図版26に描かれたカニの細部がSesarma(Sesarme) intermedia(De Haan)に一致するのに彩色がSesarma(Holometopus) dehaani H. Milne Edwardeのものである(p.129)ということを酒井博士が見つけている。学名のいくつかの誤字や印刷者のまちがいが沢山あるが,これらは,甲殻類学者には明らかに分るであろう。読者は英文体のちがいを区別できるであろうが,種々の分野の原著者の指示が,内容の委員会で与えられればよかったのではないだろうか。原典に列挙された日本の著者による著書が挿入されてないが,(つまり,p.47のK.Ito, T.Ito, p.99のイワサキヨシカズ,p.101のアレクサンダー・シーボルト)参照リストは,日本の動物学史に興味をもつ者にとって有益であるにちがいない。とびら絵として入れてある口絵(一枚はカラー)の頁は,この書の芸術的歴史的興味を非常に強めている。川原慶賀とジョセフ・シメラーによるシーボルトの青年時代の肖像画を長崎のナルタキ校と病院の敷地に彼を記念して建てられた銅像の写真と比較するとおもしろい。又,慶賀による出島の絵や,種々のオランダの使いが通った長崎から江戸への道順の地図なども含まれている。序文は,ライデン大学分類動物学の名誉教授H.ボシュマ博士,日本生物地理学会長の岡田弥一郎博士から寄せられたものである。本書は日本とオランダの長い交流にふさわしい記念であり,両著者は,非常に魅惑的な問題への学問的貢献に関し,祝されるべきである。
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