絶滅危惧種保全における生息地保全の重要性 : シマフクロウ(Ketupa blakistoni)を例にして(<特集>稀少鳥類の飼育・繁殖と野生復帰)
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概要
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昭和初期には北海道全域に分布していたシマフクロウ(Ketupa blakistoni)は, 1950年代以降生息環境の悪化に伴い個体数が減少し, 現在では日本で最も絶滅が危惧される鳥類種のひとつである。1984年ら環境庁の保護事業により給〓や巣箱の設置などが実施され, 一部の生息地では毎年のように雛を生産するなど大きな効果をあげている。しかし, 包括的な生息地保全が立ち後れてきたため, 個体数の増加・生息地の拡大にはいっていない。新たな事業のひとつとして, 野生個体を飼育施設へ移し, 一定期間の飼育を経た後に再び野外へ復帰させようとする試みが実施されている。しかし, 飼育には高額の経費を要し, 年間1個体当たりで比較すると野外での保全より費用がかかること, また環境庁施設に収容した個体の方が野外個体より生存率が低いことから, 本種の保全に有効な手段となるにはまだ時間を要する。飼育下での事業が継続する間に, 種の減少を引き起こした要因から注意の目をそらし, 行政による野生個体群の保全への努力が低下することが強く危惧される。環境庁が設立したワーキンググループが目標と定めた, 今後10年〜15年でシマフクロウの生息地倍増を実現するためには, 現生息地の保全はもちろんのこと, 生息に適した新たな候補地を含めて生息環境の包括的な保全を実施していく必要に迫られている。