家兎心房におけるPacemaker Shiftに関する微小電極法による研究
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概要
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117羽の成熟家兎心を用いて洞結節内におけるpacemaker shiftの実験を行なった.O.5%CoCl_2含有の3Mol KCl液で允した2本の細胞内微小電極を用い,コバルトイオンを電極尖端から細胞内へ電気泳動することにより電極の位置を組織内にマークする金津_<44>の方法を用いて洞結節内におけるpacemakerの位置を確認し,さらにacetylcholineを用いて洞結節内でpacemaker shiftを生ぜしめ,shiftの方向,位置を細胞内活動電位波型とその電極の位買の組織像とを対比することにより組織学的に確認した.1)真のpacemaker potentialは上大静脈の基部で,その開口部の中央よりも左前方で,しかもCrista terminalisに沿ったごく狭い部位から得られ,その部位は豊富な結合織線維がいり乱れ,いわゆる網状構造を呈し,細胞の密集および核の配列に不規貝1性がみられ,大沢の云う洞結節頭部の組織像を呈していた,このようにpacemakerが洞結節頭部に存する例は24例中17例にみられ,生理的な状態ではpacemakerは洞結節の頭部に多く存することを確認した.さらに2本の微小電極のうち一方を洞結節近傍の普通心房筋に刺入,固定して基準電極とし,他方の電極を洞結節領域に約O.3mm間隔で刺入してpacemakerからの興奮伝播図を作成した.それによると興奮は洞結節頭部のpacemakerより右方向,すなわち大沢_<45>の云うSystema septo-angularis anterior方向に早く伝播することが認められた.2)Acetylcholine(5×10_<-6>〜10_<-7>/m1)を添加することにより榑動数の減少とともにpacemaker potentialはその特徴を失い,slow depolarizationの減少,活動電位への急激な移行を示すようになりpacemaker shiftを思わしめた.そこで洞調律を示しpacemakerが洞結節頭部に存する62例の家兎心でacetylcholineを用いてpacemaker shiftについての実験を行なった.Pacemaker shiftの部位をコバルト電極法により組織学的に確認出来たもの23例,組織学的には確認出来なかったが白色エナメルを電極尖端に塗布してpacemakerの位置をマークし,shift後のpacemakerの位置と明らかに異なることからshiftを確認したもの15例,前老とあわせて38例に洞結節頭部から尾部方向へのpacemaker shiftを認めた.また,同一標本で洞結節近傍におけるpacemaker shift前後の興奮伝播図を作成したところ,shift後は前と異なり洞結節尾部より左方向(下大静脈開口部方向)に興奮が早く伝播することが認められた.3)洞結節頭部から尾部へのpacemaker shiftをさらに裏付けるために2本の微小電極の中,一方を洞結節頭部のpacemakerに,他方を尾部のlatent pacemakerに刺入し,洞結節をその中央部でCrista terminalisを含めて2つに分断した.31例中,変化のなかったもの2例房室調律に移行したもの5例,不明2例を除いて23例中15例に洞結節尾部にもpacemakerの生ずるのが認められた.これは尾部へのpacemaker shiftの可能性を示唆したものと考察した.
- 社団法人日本循環器学会の論文
- 1968-02-20